会話のボクシングシリーズ 9 親子甘

9 親子甘

◎ 康雄君 小柳だけど

★ あっ! お父さん どうしたんですか 何か急用でも?

◎ 大した事じゃないけど 今何処ですかね

★ 残業で未だ会社ですけど

◎ それは悪かったね 急いで帰らなくてもいいですよ 由紀はアパートには居ませから

★ えっ? それってどういうことですか? 由紀はお父さんの処に居るということですか?

◎ そういう事です 君の薄情な態度が許せないと言って泣きじゃくってね そんな訳で今日はこちらに泊まらせるのでよろしく

★ 僕の何が許せないのか全然検討もつかないんですが 喧嘩をした覚えも無いし

◎ それがね 昨日の夢の中で由紀が暴漢に襲われて助けを求めているのに康雄君はへらへら笑って楽しそうに眺めていたと言うんだよ それがどうしても許せないと頭から湯気お出して怒ってるんだ

★ ちょっと待ってくださいよお父さん 由紀は夢の中の僕の態度が悪かったといって実家に帰ったという事ですか?

◎ そうなんだよ迷惑掛けるね

★ お父さん 由紀の頭から湯気が出ようが煙が出ようが追い返して下さいよ そんなことでいちいち実家に帰られたらたまりませんよ

◎ 末っ子で初めての女の子だったものでちょっと甘ちゃんに育ったかも知れないね

★ 由紀ももう大人ですから『ちゃん』はいらないと思いますよ 先日もちょっと味噌汁がしょっぱいと言っただけで味噌汁の入ったお鍋をひっくり返して実家に帰ったばかりじゃないですか

◎ あれはお塩をちょっと摘まんで入れようとしたら手が滑って壺ごと味噌汁の中に落としてしまったらしいんだ許してくれたまえ

★ 誰もわざとしょっぱくしたとは思ってませんがその落とした壺ごとどんぶりに入れて味噌汁を出されたら誰だって一言言いたくなるじゃありませんか それはそれとして今回は現実ではなく夢の中の僕の態度が悪かったといって実家に帰られても僕はどうしていいのか分かりませんよ

◎ それがね よく聞いてみると現実も含まれているんだよ

★ どういう事でしょうか

◎ 由紀が悪夢から覚めて隣の康雄君を覗いたら現実の康雄君もニヤニヤ笑ってたと言うんだよ

★ お父さん それは現実といっても無意識なんですよ きっと楽しい夢を見てたんだと思いますよ

◎ 康雄君 妻が怖い夢を見てたら君も恐い夢を見るべきでしょう

★ はっ?

◎ 妻が助けを求めていたら夢の中でも飛び込んで助けに行くのが夫のつとめだと思いますよ 新婚なんだから

★ お父さん 由紀を甘やかし過ぎですよ 新婚でも夢の中には入れませんよ こんなこと言ったら失礼ですがお父さんも由紀から子離れ出来ず由紀もお父さんから親離れ出来てないように感じるのですが

◎ そうかね それでは今晩由紀と二人でお風呂に入ってゆっくり話し合ってみましょう

★ ちょっとお父さん 由紀と一緒にお風呂に入るんですか?

◎ そうですよ 貴方に嫁ぐ前の日までずーと一緒に入っていましたから 時々お医者さんごっこをしながらね

★ ガ~~ン ??#$%&!!・・・ お父さん 由紀に もう アパートに 帰らなくて いいと 告げて 下さい

◎ 康雄君 有難う

★ ガンガンガンガ~~ン  ガクッ

   おわり