白髪の王子様の見聞録 ②誉め伯母さん

②誉め伯母さん
◎あらっ!友君はお箸で小さなお豆を摘まんで食べるなんて器用ね〜 然も左手で 偉いわね〜〜
★偉くなんかありませんよ 僕は元々左利きだし子供の頃箸の使い方を習うためによく父さんと大豆を摘まんで食べたのを思い出して遊んだだけです
◎でも友君は偉いわ〜 そんなに手先が器用なのによくスリにならなかったわね
★伯母さん そんな誉め方されてもちっとも嬉しくなんかないよ 内は泥棒家族じゃないし
◎フフフ そのぶっきらぼうな言い方 学生時代のあなたのお父さんにそっくりだわ
★父さんは学生時代結構グレてたって本当ですか
◎半端ないっすよ あのグレ方は 喧嘩はするし物は壊すし部室で酒は飲むしでその度母親が学校に呼び出されて床に頭をこすり付けて謝ったからこそ無事退学処分を受けないで卒業できたのよ
★カッコいいな 父さん
◎何がカッコいいもんですか お蔭で三つ上の私まで『不良息子の姉』として肩身の狭い青春時代を過ごしたんだから 弟は夕日に向かってバカヤローと叫んでたらしいけど 私は心の中で毎日弟に向かってバカヤローと叫んでいたわ
★ハハハ だから父さんは今でも伯母さんに頭が上がらないんだ
◎それが ある事件を切っ掛けにすっかり悪事をしなくなったのよ
★どうしたんですか? お爺ちゃんがフライパンで父さんの頭をぶん殴ったんですか?
◎友君の発想は推理小説並みね きっといい推理小説家に成れるわよ でもね残念ながらそんな乱暴な方法じゃなくて 誉められただけなのよ
★それこそ『事実は小説より奇なり』ですね 半端ない不良の父さんが褒められるなんて
◎そうなのよ 事件というのは ある日お婆あさんが横道でひったくりに有うのをたまたま弟が目撃して犯人を追いかけ 奪われたバックを取り返し 逃げた犯人が落とした帽子を交番に届けて犯人の服装や乗っていた自転車の特長を知らせたところ翌日には犯人が捕まったのよ
★へ〜〜〜
◎それで学校には警察からお礼の連絡が入るし ひったくりにあったお婆さんが学校にお礼にくるわで弟は一躍英雄に成ってしまったのよ 今迄三角の目をして睨んでいた担任の先生ばかりか校長先生からも褒められ クラスの女生徒からも『私達がいじめられそうになったら助けてね』なんて頼まれちゃ もう悪い事なんか出来ないわよね
★へ〜〜そんな事が有ったんですか
◎子供は叱って育てるよりも誉めて育てる方のがのびのびと明るい性格に育つって本当ね
★それで伯母さんはやたらぼくを誉めるんですね
◎そうよ 小学生の頃から友君をずっと褒めてきたつもりだけど あなたはちっとも伯母さん孝行をしてくれないわね ちょっと甘やかし過ぎたのかしら
★こうして遊びに来るだけで伯母さん孝行だと思うんだけどな〜
◎甘いな〜〜 誉めて育つ人間と褒めると付け上がる人間があってね 友君のそのあんみつみたいな頭こそフライパンでぶん殴る必要があるわね ちょっと待ってなさい 今台所からフライパン持って来るから
★伯母さん 伯母さん 僕は伯母さんにフライパンで殴られる程甘くありませんよ

おわり