白髪の王子様の会話ドラマ 七人の神様 ⑤疫病神の探偵

⑤疫病神の探偵
(疫病)貧乏神さんよ お主に参拝者は来たかね
(貧乏)来る訳ないだろ 誰が『私を貧乏にして下さい』なんて拝みに来るかね 疫病神さんだってそうだろ
(疫病)それがよ 驚いたことに先週参拝者が一人来たんだよ
(貧乏)嘘だろ『私を病気にして下さい』なんて頼むぐらいなら手っ取り早く『ぽっくりさん』にお願いすればいいじゃないか
(疫病)それがさ 自分じゃなくて母親の足を弱らせてほしいとの願いなんだよ
(貧乏)なんじゃそりゃ こともあろうに自分の親を病気にしようなんてとんでもない奴だ思い切り痛みつけてやればいいじゃないか
(疫病)俺も一瞬そう思ったけどさ なにせ初めてのお客様だからよ 息子が何故そのような思いに至ったのかを調査することにしたんだ そこで一人じゃ不安だからお主に調査の同行を頼みに来たという訳だ
(貧乏)どうせ俺は暇だから構わないけどさ 足だけ弱らせてほしいなんて不思議な願いだよな 鬼ごっこしても母親の足が速くて捕まらなくて鬼ばかりやらされてるのかな
(疫病)息子と言ってももう40過ぎの大人だよ その親だから母御も70前後であろうな
(貧乏)ふ〜ん 解せないな〜
(疫病)そうだろ だからこれから現地調査に赴くところなんだ お主とは今までもよく現場で鉢合わせになった仲だから気心も知ってるから安心だしな
(貧乏)言われてみれば確かにお主とはよく鉢合わせになったよな 俺が取りついて貧乏に成れば医者にも掛かれず病気に成るし お主が取りついて病気になれば働けなくなって貧乏になるから俺達って同業者のようなもんだな はははは それでは暇つぶしに同行するとしよう なんだか探偵にでも成ったようでワクワクしてきたよ

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(疫病)お〜着いたぞ あの旅館がそうだ 運よく母御と思われるおばばが縁側で休んでおるから早速インタビューしに参ろう
(貧乏)おい 人間に変身するなら足を出せよ足を
(疫病)おっといけね〜 最近足を使ったこと無いもんで折り畳んで奥にしまって置いたからすっかり忘れてしまったよ これで良しと では行って参る
(貧乏)おい 待った待った 
(疫病)何だよ 足はちゃんと出してるじゃないか
(貧乏)足は出てるけどさ 足をぶら下げたままスーッと地面の上を滑るなよ 足を互い違いに動かさないと下品なお化けと間違えられるじゃないか
(疫病)おう そうであった 人間とは面倒くさいの〜 やっぱりお主に来てもらって良かったよ

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(疫病)御免なすって
◎おやっ? どなたさんで 何時の間に庭に入り込んで 物乞いかい
(疫病)いえいえ 隣り村の者ですがちと道に迷いましての この近くに七神神社が出来たと聞きましてお参りに来たんですが道を教えて頂けませんかの〜
◎おやおやそうですかい ここまで歩いて来なすったのかえ 難儀でしたの〜 どうぞ縁側に座って休んでくだせい今お茶を入れるよって
(疫病)有難うござんす それでは遠慮の〜座らせていただきます
◎先程は物乞いなどと失礼申したの しかしあんたも悪いよ 2〜3ヶ月洗濯もしてないようなヨレヨレの白衣を引きずってさ どう見ても病人か物乞いにしか見えないじゃないの はだけた胸元からはあばら骨が波打っているのが見えるしさ あんた疫病神にでも取りつかれてんじゃないのかい
(疫病)はい おさっしの通り頭のてっぺんからつま先まで疫病神でありますがこれでも何百年も生きておりますのでご心配なく
◎ホホホホ あんた貧相な顔してるわりには面白いこと言うね 貧乏しててもそのようにポジティブに明るく生きていればいずれ良い事も巡ってくるから悲観して首など吊ってはなりませんぞ
(疫病)いえいえ拙者は貧乏でも有りませんし悲観もしておいませんのでご心配なく ところでおばば様はお元気そうですね
◎ホホホ 元気ですよ あなたと相撲を取っても負けないくらいにね
(疫病)ははは拙者は風が吹いただけでフラフラしておりますからおばば様には敵わないでしょうな
◎あんた ネギばっか食ってねーで少しは肉でも食いな 貧乏で肉が買えないなら蛇でも蛙でもふん捕まえて焼いて食えばまちっと見栄えが良くなるっぺ
(疫病)さっきから申しておりますように拙者は貧乏では有りませんのでお気遣いなく ところでおばば様は足は達者ですか
◎今でも肉が食べたくなったらよ 山さ入ってイノシシをふん捕まえてシシ鍋にするだ
(疫病)恐れ入りました その調子なら今度の東京オリンピックにも出られそうですな
◎ホホホ あんた貧相のわりには面白いこと言うじゃないの
(疫病)その言葉は先程聞きました
◎そうでしたか とにかく貧乏でも悲観して首など吊ってはなりませんぞ
(疫病)その言葉も先程聞きました
◎そうでしたか それでは七神神社を案内するべ だけんどここからまだ1里は有るけん息子に案内させましょう ちと待ってくれろ お〜い健一郎 ちょっとこっちこさ来ておくれ
●なんだい母さん 
◎こちらの貧相なお方は隣村から七神神社に行く途中道に迷ったそうじゃ 神社まで車で送ってやっておくれ
●分かった おじさん今ならそれ程忙しくないから神社まで送ってやるよ
(疫病)有難うございます それではおばば様お世話になりました
◎あいよ きーつけてな 転んだら起きておくれ 貧乏でも首など吊るんじゃねーぞ
(疫病)・・・・・

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(疫病)息子さん お母様は元気ですね
●元気過ぎて困っております
(疫病)おやおやそれは贅沢な悩みですな
●私達の旅館の仕事は朝早くから夜遅くまで結構ハードなんです
(疫病)それなら尚更お母さんが元気で手伝ってくれれば助かるのでは
●それが困るんです 結婚したばかりの妻はサラリーマンだったので旅館の仕事はズブの素人でしてどんなに頑張っても母の足元にも及びません
そんな妻を見兼ねた母はさっさと一人で何でもやってしまうんです それで妻はすっかり自信を無くして自分には出来ないと言い出したんです
(疫病)ほ〜う それも困りましたな〜
●恥ずかしい話ですが私は再婚なんです 前の嫁も同じ様なことで実家に帰ってしまい 暫くして離婚届けの用紙が送られてきたのです 又同じ事に成ってはと母にも妻にもっと優しく教えてほしいと頼んでいるんですがいざ仕事を始めると長年の習慣で体が勝手に動いてしまうらしいのです
(疫病)そうですか それでも母親を恨んではいけませんぞ そんなことをすれば必ずご先祖様があなたに何らかの罰をあたえましょう
難問解決の方法として奥様にバカになるよう勧めては如何かな
●バカにですか
(疫病)さよう お母様と張り合うのではなく一歩引いて何でもかんでもお母さんに質問するのです 怒られたり皮肉を言われたり無視されてもニコニコ笑って『頭が悪くて済みません』と受け流して一日中お母さんに付いて仕事を覚えればいいんですよ 焦ることなんかないんです ゆっくり覚えればいいんです だって『頭が悪くて済みません』と伝えてあるんですから そうすれば若奥さんの気持ちも随分と楽になると思いますよ 1〜2年の我慢です
●成程 良いことを聞きました
(疫病)あなたも母親に背を向けるのではなく奥さんと協力して二人の輪の中に取り込んでしまいなさい そうすればあなたの旅館は益々繁盛しますよ
●有難うございます 亭主の威厳を保つためにも頑張ってみます
おじさん 前方のこんもりした丘が七神神社です
(疫病)やれやれ お陰様でようやくお参りが出来ます ここで降ろして下さい 後はゆっくり周りの景色でも眺めながら歩いて行きますので
●それでは きおつけて・・・あっ あっ ひえ〜〜
            キキキキ〜 ブオ〜〜ン
(疫病)あれっ? 何であんなに車を飛ばして 事故でも起こさなければよいが・・・
(貧乏)おいおい疫病神さんよ お主又チョンボをしでかしたな
(疫病)やあ貧乏神さんそこで見てたのか チョンボって何かな
(貧乏)お主車から出る時ドアを開けないでス〜ッと外にすり抜けたであろう
(疫病)あっ いけね〜 それにシートベルトも外さないまま出てしまったわい
(貧乏)それを見て息子はビックリ仰天 慌てて車をぶっ飛ばして帰ったという訳だ
(疫病)ははは面目ない しかしどんな理由があるにせよ母親の足を弱めるよう願った罰としてあの位のショックは当然の報いであろう
(貧乏)確かにそうじゃのう しかし疫病神が人助けをするとは世も末じゃの〜 
ハハハハ ご先祖から厄病神の免許を取り上げられるかもな ハハハハ

                おわり