白髪の王子様の会話ドラマ 七人の神様 ④ぽっくりさん

ぽっくりさん
ぽっくりさんよ 長生きすんのも楽じゃね〜の〜 歯はボロボロ抜け落ちて今じゃ3本しか残ってね〜だ 今朝なんか豆腐までがおらを馬鹿にしてよ歯の間を隠れんぼしながらチョロチョロ逃げ回って遊んでいただ 声を出して笑うとひ孫が『妖怪だ』と言って逃げるし黙って笑っていると嫁が逃げるし長男までが薄暗いところで笑うなと小言を言うしよ『笑う門に福来たる』なんて嘘だぞ おらが笑うと家中のもんが鬼になるだ ほんに困ったもんだべや 長生きすんのも楽じゃね〜ぞ〜ぽっくりさん
目は丈夫でよ 屋根のてっぺんでチョロチョロしてる蟻んこも良く見えるだ だけんどよ近くはぼけ〜として嫁の顔も湯に漬けたカンパンのようにボワ〜ッと膨らんで見えるだ いつも締まりのねー顔をしてると思っていたけんどどうやらおらの目の締まりが悪かったみてーだ
耳は10年以上前からどんどん遠くなってよ今じゃ誰の声もノミとシラミの内緒話だばい
身体もあちこちの蝶番が緩んでよ動かす度にガクンガクンして外れそうになるし膝や手首のベアリングも錆びてしもーて曲げ伸ばしする度ギーギー悲鳴をあげるだ 長生きすんのも楽じゃね〜ぞ〜ぽっくりさん
くしゃみをすればオシッコは漏れるしあばら骨はカタカタ震えるし あくびをすれば顎が外れるだ ぽっくりさんよ顎が外れた顔がどんなもんか見たことあるかね 締まりのない嫁の顔どころじゃねーぞ馬面をもっと引き延ばしてよ口をパクパクさせてヨダレを垂らしてあ〜あ〜うめいてる姿は妖怪も腰を抜かすだ ぽっくりさんよ長生きすんのも楽じゃね〜ぞ〜 毎晩横に成る度『ぽっくりさんいらっしゃい』と声を掛けてるのが聞こえねーのかね『いらっしゃい』と言ってもおらを抱いてほしいとは言ってねーから安心しな でもそれでもかまわないからさ お暇な時に寄ってくんろ 待っているよぽっくりさん ウッフ〜ン 

ぽっくりさんがおら達の村に来てくれた嬉しさでよおらは誰よりも早くお迎えに来てくれるようお願げーに来たけんどちと事情が変わったもんで報告に来ただ 
昨日70年振りに幼馴染の健ちゃんと公民館のカラオケ教室でばったり会っただ 健ちゃんは今でも王子様のようにキラキラ輝いていたもんだべや その健ちゃんも今は一人もんでよ残りの人生を好きなだけ楽しんでからあの世に逝くんだと言ってスマップの連中よりも爽やかな笑顔でおらに語りかけるだ
おらがよ健ちゃんはおらの初恋の人だと告白したらよ今度の東京オリンピックを二人で見に行こうということに成っただ 70年越しの初デートだ それだけじゃねーだ 健ちゃんは物知りでよ7〜8年後にはリニアモーターカーとかいう化け物みてーな乗り物が開通するからそれも一緒に乗る約束をしただそんなこんなでよ この前までは棺桶に片足突っ込んでぽっくりさんの来るのを待っていたけんどよまちっとお迎えは待ってくんろ 健ちゃんの話によっては10年後20年後の約束もするかもしんねーから取り敢えずこないだお願げーしたことは聞かなかった事にしてくんろ ぽっくりさんたのんだよ 

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◎死神様 ぽっくりさんデビューは如何でありましょうか
(死)今迄は何らかのしがらみで成仏できない者を有無を言わせずあの世に送ってやるのが我々の仕事だったが ぽっくりさんにお参りに来る村人の話を聞いてみると人によっては死はけして悲劇だけではなく苦しみから解放される喜びであることも知らされたよ 自分の死によって残された家族に迷惑が掛からなくなるようにと願う人も多い 村長さんのお蔭で死神の目からもウロコが落ちた感じじゃ 我々の仕事が人々から感謝されるなんて死神も長生きしてみるもんじゃの〜

ぽっくりさんは日本ではまだ許されていない尊厳死の陰のヒーローです よく吟味していただきどうぞぽっくり業務に励んでくださいませ

(死)さようか それでは一段落したら明日にでもそなたを迎えに行くとしようか

◎と とんでもありません 私は未だやり残したことも沢山有りますし ぽっくりさん参りもまだしてませんのでどうぞお構いなく 

(死)さようか そなたには色々世話になってるから 誰よりも優先して迎えに行くから遠慮のう言ってくれ

◎それはそれは有り難いお言葉ですがせめて白寿になるまでは私のことは忘れて頂きたいと思います

(死)はははは そなたも随分と欲張りじゃの〜 ところでそなたのご両親もまだ健在でなによりじゃが年寄りの殆んどは自分が迷惑を掛けてる以上に人の役に立ちたいと思っているものじゃ 自分が何の役にもならないと感じた時にお年寄りは我々ぽっくりさんにお参りに来る それを忘れないようにの村長殿 

◎死神様から教訓を頂くとは私も目からウロコでございます しかと心に受け止めまする

                          おわり