①村起し
◎七人の神様が揃いましたので改めてご挨拶させていただきます 村長の岸本玄之丈であります
先祖が宮司であったことから皆様とこうしてお話できることを光栄に思っております
さて我が村に有りました唯一の神社が昨年末不審火によって焼失してしまいました 心の支えであった鎮守の神様を失い不安と悲しみにくれる村民を見兼ねまして今回お祭り広場に仮設の社殿を建立しまして皆様をお迎えした次第であります
（福）私は福の神であるが人口千人にも満たない小さな村に何故七人もの神を迎えたのじゃ この様な小さな部屋にぎゅうぎゅう詰めにされてはオナラ一つできないではないか
◎申し訳ありません 社殿は宮大工の手造りのため完成までにはもう暫く時を必要としておりますのでご理解の程よろしくお願い申し上げます
ご質問の七人の神様をお迎えしました理由ですが一言で申せば『村起し』でございます
七賢人 七高層 七福神等 七という数字は神仏を問わず尊く縁起の良い神々しい数と聞いております
今回神殿を建立するにあたり全国から優れた七人の神様をお迎えして全国にその名が轟くような霊験あらたかな神社としたいのであります
福の神様は当神社では親しみやすい『大福様』と呼ばせていただきます
（死）ちょっと腰を折るようで悪いけどよ その七人の中に何故拙者のような死神を呼んだのかね 拙者が表に出たら民は恐れをなして来なくなるのではないのか
◎はい ごもっともで そこで死神様には『ぽっくり様』と名を替えて登場していただきます
ぽっくり様は最近は大変なブームでありまして有名なポックリ寺は多くのツアー客で溢れております 我が村からも他県のぽっくり寺に参拝する者も多くなってきましたので三顧の礼をもってあなた様をお迎えした訳であります トレンディーな神様ですのでどうぞ胸を張ってお勤めいただきたいと思います
（健）我は健康の神であるがこの神社では何と呼ぶつもりじゃ
◎はい 『絶叫の神』又は『ストレスの神』と呼ばせていただきます
（健）何じゃと 絶叫の神と申したか それでは我は朝から晩まで絶叫せねばならんのか 喉がつぶれるぞ
◎いえいえ絶叫するのは参拝者です 現在の病の殆んどはストレスが原因と言われております 嫌な事や辛い事や悔しいことを思う存分絶叫してもらい心に溜まったストレスをぶちまけて気持ち良く返っていただくという近代的でポジティブで発展途上のシステムであります
（健）それにしても一日中参拝者の罵声を浴びねばならんではないか我のストレスはどうしてくれるのじゃ
◎はい お仕事ですので何事も辛抱が肝心と思われます 当神社ではストレス解消一点に絞りたいと思っておりますので宜しくお願い申し上げます
（健）参拝者の絶叫を我慢するにしても酒でも飲まなきゃやってられないぜ村長さんよ
◎はい そう思いましてストレスを解消するために絶叫する参拝者は売店で一合のお酒を買ってお供えするしきたりとなっております １０人が参拝すれば一升となります くれぐれも飲み過ぎて参拝者にからまないようお願いします
（豊）拙者は豊作の神であるが何か申す事はあるのか
◎はい 豊作の神様には様々な祝い事の神様として『チンドンの神』となっていただきます
（豊）何じゃそりゃ
◎はい この村は昔二千石の小さなお城の城下街でありました その影響で今も農業を営む者は半数で残りの半数は職人や商人や近くの工場等で働くサラリーマンであります そこで農家だけでなく村民全体から親しまれるお祭りの神様として活躍していただきたいのです あなた様は豊作の神様の三男坊で祭ごとを担当なされていたと聞きましたのでこれ幸いと喜んでお招きした次第であります
（豊）良く調べたの〜 確かに拙者は祭ごとが大好きでの 巫女にも尻まくりさせて踊らせたら親父から怒られてしまったわい 可愛いお尻をプリプリさせて楽しかったの〜ハハハハ
◎今そんな事させたらセクハラで訴えられます
（豊）窮屈でつまらない世になったの〜
◎はい ですから絶叫の神様が必要なのです お祭りは神様のためのお祭りもありますが村民の祝い事にも参加していただき一年中祭囃子の聞こえる楽しい村にしていただきたいと願っております
（貧）あの〜
◎おや お二人で隅にちんまりなされて 何か質問でも有りましたらどうぞ
（貧）あのさ〜俺達二人は場違いで間違って呼ばれたんじゃないかと話しをしてたんだよ
◎そんなこと有りませんよ
（貧）だってよ〜俺は貧乏神でこいつは疫病神だぜ 俺達は人間様からは嫌われもんで表には出られない裏街道を行く渡世なんだぜ その俺達が何で村起こしの役に立つのかね 逆に村を壊すかもしれないぜ
◎貧乏神様は一夜にして大金持ちを貧乏人にする達人と聞いております また疫病神様は電光石火狙ったところを瞬時に麻痺させることができるこれまた達人と聞いております それを承知でお迎えしたのであります この村にも残念ながら怠け者や乱暴者がおります 豊作の神様にお願いしたからと八十八手の手を抜く者がいたら貧乏神様はその者の作物の値を暴落させてほしいのです また疫病神様は暴力で人の物を盗んだり壊したりする者がいましたら振り上げた手や蹴り上げた足に取り付き被害者の何倍もの痛みを与えてほしいのです
（病）つまり『みせしめ』のための神と言うことだな
◎おっしゃる通りであります 人間は小銭がたまるともっとお金が欲しくなります 小さな福を得るともっと大きな福が欲しくなります それが欲となって怠け者や乱暴者の芽となります それに怠け者や乱暴者は仲間を増やそうします ですからその芽を早いうちに取り潰していただきたいのであります 若しかしたらお二人の仕事が村起こしの一番重要なポイントに成るやも知れません どうぞこれからは堂々と日の当たる場所で目を光らせていただきたいのであります
（貧）今迄は人様の気配がしただけでも電信柱や物陰に隠れる癖がついてるから心配じゃな
◎ハハハハ 直ぐに慣れますのでご心配はいりません これからは隠れるのは怠け者と乱暴者であります
さて 今迄何百年にわたり村人を守っていただいた鎮守様は今回の不審火の責任を取って身を引きたいとの仰せで止む無く七人の神様を公募しましたが村人の鎮守様にたいする信頼は揺るぎ無いものでして引き続き『諸々の神様』として村人の話し相手となっていただきたいのであります
（鎮）諸々とは？
◎はい 様々な願い事の処理は他の神様にお願いしまして鎮守様は村人の諸々の話を聞いてあげてほしいのです 単なる愚痴かも知れません 昔の思い出話かもしれません 長々と同じ話を繰り返す者もおるでしょう そうした他愛無い話でも『そうか そうか』と優しく聞いてあげてほしいのです 過疎化が進み一人暮らしのお年寄りも大分増えてまいりました なかには子供から貰ったおしゃべり人形に話し掛けて暮らしているお年寄りもおります 寂しくなった時鎮守様が話を聞いてくれたらどんなにか心が癒されることでしょう この仕事は長年村人と寄り添って暮らしてきた鎮守様にしかできません ご高齢ではありますがどうかこれからも村民のためにお力になって下さいますようお願い申しあげます
（鎮）あい分かった
◎有難うございます 村民の喜ぶ姿が見えるようです これで私の肩の荷も下りました
さて神様の皆様 明日からこの仮設の神社をオープンしますのでよろしくお願い申し上げます
・・・おいおい引っ越し休みもないのかよ 人使いじゃなくて神使いの荒い村長だな 酒はどうしたオープン祝いの酒ぐらい用意して有るであろうな
◎はいはい お酒はここにたんと用意してあります しかし立ったままで飲んで下さいませ 座ると二三人の神様が部屋からはみ出してしまいますので
・・・村長さんよ そなたも中に入って一緒に飲もうではないか 我々の腹と腹とで挟み撃ちにしてお煎餅にしてあげようではないか
◎有難うございます しかし女神様に挟まれるなら喜んで挟まれますが男臭い加齢臭には耐えられませんので遠慮させていただきなす はい
・・・俺達だって一人ぐらい女神を呼んでくれたら文句も言わないがお前が男ばかりを選んだのではないか
◎はい このメンバーでは女神さまの身が危ないと思いましたので
・・・こいつ 言いたいこと申して ハハハハ 言われてみれば確かにそうじゃな ハハハハ ハハハハ
終わり
はい チーズ
