白髪の王子様の会話ドラマ 七人の神様 ②行列の出来る諸々様

②行列の出来る諸々様
○久し振りじゃの〜鎮守様 あの火事で焼けどなどしなかったかい
あの火事はならず者のタバコの火が原因らしいけんども犯人捜しはすんなと村長さんが村中に触れ回ったもんでいまだに原因不明のまんまだばい 焼けちまったもんはどんこんならん そぎゃん事より鎮守様が無事戻って来たことがほんに嬉しか〜 これからもおら達を見守ってくんろ 今日はあばかん行列してるけん挨拶だけしか出来んばい しょんなか〜

○こないだよ うっかりして財布こさ忘れて買い物に行っちまっただ 家こさ戻ってオトーに『オラ最近ぼけちまったかな』と聞いたらよ『最近じゃね〜結婚した時からず〜とだ』と言われただ これが50年も連れ添った亭主の言う言葉かいな まちっと人間らしいこと言えんもんかいな
頭に来たことはそれだけじゃねーだ
2〜3日メーのことよ 長男の嫁におらの靴下を捨てられてしもーただ つま先とかかとに穴が開いてるから見っとも無いとぬかしてよ おらに黙って捨てちまったもんだ そん時の嫁の顔を見たらよ 頭のてっぺんに角が3本もあったべな ほんに恐ろしい鬼嫁だばい
あの靴下はよ おらのお気に入りの靴下でよ つま先の穴から入った空気がかかとの穴から抜けてほんにここち良いのに今の若いもんは物を大切にしなくて困ったもんだべや
んだからよ 今履いてるパンツにも穴が開いてるけん見付けられんようこっそり手洗いしてよ生乾きのまま履いてるだ これがよヒヤッとしてほんに気持ちいいだ

○鎮守様よ〜 おらの声聞こえるかね〜 隣の婆さんの声がうるさくてよ〜 おらの声はローソクの火の様にゆらゆら揺れて消えそうじゃばい あんな婆さんと内緒話なんかしたらよ隣村まで筒抜けじゃばい
ほんによ〜鎮守様 隣の婆さんの声なんとかならんもんかいな あの馬鹿でかい声のお蔭でおらの願い事をすっかり忘れてしもうたばい

○鎮守様よ〜 買い物に行く途中で行列を見たもんでよ 何か只で配ってるんじゃないかと思って並んだらここに来てしもただ だからよ おらが横向いてるうち買い物籠にグッサリ肉なんぞプレゼントしてくれないかの〜 鎮守様よ〜横向かんでけろ〜

○婆がね 足を痛めちゃって来れないからおらが代わりに来たの 偉いでしょ これ婆がつくったお萩だよ 食ってみなんせ 三つ有るけんど神様が食っていいのは一つだけだよ 一つはねおらのお駄賃 もう一つはね神様にお供えした後で持ち帰って婆にあげるの それを食べると婆の足が良く成るんだって 無事にお参りできたらねおらは美人さんになれると婆は言ったけどよ婆とお母ちゃんの顔をみたらどの程度の顔に落ち着くかおらはちゃんと分かってるだ

○うちの姑はいさぎゅー底意地が悪いだ お客様が来るとわざわざ穴の開いた靴下に履き替えてヨレヨレの継ぎした上着を羽織って客人の前に出るだ それを見るとたいていの客人は白い目でおらをみるだ まるでおらだけが綺麗なべべ着て姑にはボロを着せてるかのような目で・・・
それだけじゃねーだ さっきまでカラオケで元気良く歌っていたのに客人の前ではコンコンと弱弱しい咳をして三日も何も食ってねーよーな嘘を平気で言うだ こんな悪さばっかするけんこんごろ通販でギロチン買ってよあん人の出入り口に仕掛けたくなるだ しかしよ〜廊下に首がコロコロ転がってるのもあんべー悪いけんどぎゃんすんべーかの〜

.................
◎鎮守様 御盛況のようでお疲れではありませんか?
(諸)何の 行列してまでお参りに来てくれるとは思ってもなんだ 嬉しいことだ
◎村人も満足げにすっきりした笑顔で帰っていきました 神社とは頼れる喜びと頼られる喜びとが重なるお目出度い場所だと改めて認識いたしました 仮設ですが早めに神社を建立して良かったと思っております
(諸)それは私も同じ気持ちじゃ なにせ今迄私も失業中でハローワークのお世話になろうかと思っていたところだったからの はははは
◎お参りした者に聞きますと鎮守様の声は耳からではなく全身の肌から入り込むような感覚で確かに聞こえると申しておりますがどのような方法でお気持ちを伝えているのでしょうか
(諸)私は何も言ってはおらん ひたすら参拝者の話をじっくり聞いてやってるだけじゃ 参拝者は胸に溜まった汚物を残らず吐き出すことによって冷静になり自分で解決策を見出すのじゃ その解決方法を私の声と信じているのであろう 中には話に夢中になって私にお供え物として持って来た御饅頭を私が食べないうちに全部食べて帰る者もおるがそれも私を信頼してのことだから嬉しいことじゃ
そう言えば そなたの奥方が別れる別れない等と深刻な話をしておったぞ
◎えっ 鎮守様それは本当の話ですか? いったいこの私が何をしたと言ってるのですか?
(諸)それはプライバシーの問題だから話すことは出来ん
◎鎮守様それは私のプライバシーでもあるんですよ 手遅れにならない内に解決いたしませんと
(諸)それもそうじゃの それでは特別に奥方の別れ話しの内容を話そう
そなたの飼い猫が生んだ3匹の子猫を友人にあげる約束をしたが子猫と別れるのが辛いが結局別れることにしたという話じゃ
◎鎮守様〜 驚かさないで下さいよ それは神社の横で女房が茶飲み友達と話してたことじゃないですか そこには私も居ましたよ も〜鎮守様そんなとこまで聞き耳を立てないでくださいよ〜
(諸)おや そうであったかの〜 はははは 今日は実に愉快な一日であったわい はははは
                   終わり