白髪の王子様の見聞録 ①小銭の成る木

①小銭の成る木
◎今年の柿は丸々と太って 良く育ちましたね〜 おじいさん
★そうだな〜 異常気象にも負けず 台風にも負けず 枝が折れんばかりの沢山の実を実らせて 本当に有り難いことだ
◎そろそろ食べ頃ですが 今年は甘柿ですかね それとも渋柿ですかね おじいさん ちょっとかじってみてくれませんか
★私はリトマス試験紙か 柿をかじったとたん 顔が赤く成ったら甘柿で青くなったら渋柿と判定するつもりかね 若しかしたら急にケラケラ笑い出してバッタリ倒れるかも知れんぞ
◎毒キノコじゃあるまいし 渋柿をかじったくらいでポックリなんか逝きませんよ むしろ苦味走ったいい男に成るかも知れませんよ
★ふん 自分こそ梅干し婆さんを先走ってるくせに
◎何か言いましたか 
★この柿の木は俺が産まれたのを記念して親父が植えたもんでな ずーっと俺と一緒に暮らしてきたんだ 双子の兄弟のようなもんさ
◎そうですか それじゃお互いに気心と木の心が理解できるんですね 色づいた柿に向かって『お前は甘いか?』と聞いて首を横に振ったら渋柿なんですね
★お前は長生きするよ 
◎お陰様で もう充分長生きしてますよ おじいさんと この柿の木は80年も一緒に暮らして来たんですから何か見分ける方法が有りそうなもんですけどね〜〜 去年は甘柿だと思ってたら渋柿も交じってたりして困ったもんでしたよ
★一つだけ方法は有る
◎どんな方法ですか まさか全部かじってみるんじゃないでしょうね おじいさんの歯型がついた柿なんかご近所に配れませんよ
★幼い頃 この柿の木の下で面白い話をしてあげると不思議と木の葉がサワサワと動いたり赤い実が嬉しそうに揺れたりしたもんだ その揺れた実を選んで食べると必ずや甘くて美味しい柿だったことを思い出したよ
◎あんれま〜 おとぎ話しみたいですね 試しに面白い話を聞かせて御覧なさいよ それで腹を抱えてゲラゲラ笑ってる柿を選んで私がもぎりますから
★それでは 久し振りに話し掛けてみるか 『柿の木さんよ 隣りに塀が出来たそうだ へ〜〜』・・・・・
◎あんれま〜 おじいさん これ全部渋柿だわ どの実も凍り付いたように微動だにしませんよ
★そんなことないさ そこの枝と枝の又のところにある実は嬉しそうに揺れてるではないか
◎あんれま〜〜 こんな処に実を付けるなんて珍しいこと しかも金色でキラキラと輝いているじゃありませんか
★若しかしたら これは金のなる木かも知れんぞ もっと楽しい話をすればこの実から小判がザクザクと落ちてくるかも・・・
◎おじいさん さっきの駄洒落はパクリですから 今度は自分で考えたおもしろい話を聞かせて御覧なさいな
★う〜〜ん 急に言われてもな〜〜 よし これはいけるぞ 『柿の木さんよ この柿はまだ子供だからカキじゃなくてガキだね』
       パカッヒラ ヒラ ヒラ
◎あらっ おじいさん 口が開いて 何か落ちてきましたよ
★一円玉が3枚振ってきたよ やっぱりこれは金の成る木だ
◎まあ 有り難いこと これで今晩のおかずはモヤシが7本づつ食べられますよ
★モヤシ7本だけじゃ寂しいな ばあさんも何か面白い話ししてご覧よ柿の木が喜べばもっとお金が落ちてくるかも知れんぞ
◎面白い話しですか 面白い顔ならできるんですけどね〜・・・それでは気に入ってくれるかわかりませんが柿の木さん 聞いてくだされ  『杭を打つ音で上手な大工さんと下手な大工さんが分かるそうです 上手な大工さんの音は トンテンカ〜ン トンテンカ〜ン と聞こえますが 下手な大工さんの音は トンチンカ〜ン トンチンカ〜ン と聞こえるそうです』
パカッ
チャリン チャリン チャリチャリ チャリン
★ありゃ ありゃ  ばあさんよ 500円玉が5枚も落ちてきたよ
◎あんれま〜〜 ありがたや ありがたや   久し振りに今晩はお肉が食べられそうですよ
★ばあさんよ 長生きはするもんだな〜〜
◎ほんに これからも 柿の木を交えて面白い話をしながら暮らしましょうね
★んだ んだ

おわり