白髪の王子様の会話ドラマ あっぱれ城 ⑥ 火消の友

火消の友
◎お里、お春が又お父様のお共で半年程来れないそうじゃ、寂しいのう。
△んだなー、あんにゃ優しい姉さんがいだらおらももう少しは女らしく育ったと思うだが、おらのきょうでい6人、おらを除けば全部男だべさ。んだもんでめーにちのようにあんにゃ達と取っ組み合いの喧嘩しながら育ったもんでイノシシも除けて通るようなごっつい女に成っちまっただ。
◎ははは それは凄いのう。
△本当だぞ、2年めーのことだ田舎のけもの道こさ歩いとったらイノシシが突進して来ただ、あまりにも突然だったもんでおらは除けることもでげずイノシシの目こさ睨みつけて身構えたらおらの横を駆け抜けて行っちまっただ。それを木陰で見とった村のもんがおって『猪殺しのお里』と呼ばれるように成っちまっただ。おらは猪どころか蟻んこ一匹殺してなんかいねーのに噂って恐ろしいもんだべさ。
●姫、爺でございます。ちょっとよろしいでしょうか
◎なんじゃ、今お里とおしゃべりしているところじゃ。
●実はすっとびお竜の紹介で新しい友をお連れいたしました。
◎ほう、すっとびお竜の紹介とな、それでは男であろう。
●これは驚きました。その通りにございます。こちらに通してよろしいでしょうか。
◎丁度良い、お里も居ることだし早速顔合わせをいたそう。
●それでは『つっぱり源太こちらえ』・・・このつっぱり源太は火消の息子でありまして姫より一つ下にございます。どうやら反抗期のようで親も心配しておりました。
◎つっぱり源太よう来てくれた。よろしく頼むぞ。
●これ源太、ぽっちゃり姫じゃご挨拶を。
▼あのよー、俺、女なんかと遊ばねーぜ、ちょっと突けばメソメソ泣くし親に言い付けるしやってられねーよ。
◎ほう、さすがお竜の紹介だけあって威勢が良いの〜、お里はどう思う?
△馬鹿な男だ。
◎それだけか。
△馬鹿な男に飾る言葉なんかなんもねー。
▼おいそこの女、大口たたいてると痛いめにあうぞ。
●これこれ二人共、顔合わせで喧嘩することもあるまい。・・源太、こちらは姫の友でびっくりお里と申す。お里の村では男も女も一緒に遊ぶそうじゃ、強い子は弱い子を守り、赤ちゃんを背負った子には時々おんぶを交代してあげながら仲良く遊ぶそうじゃ。そなたは江戸っ子らしいが良いことは学ぶべきであろう。
◎爺、もうよい、私はつっぱり源太のような威勢の良い男はすきじゃ。なあ源太、爺は私が木登りしたり相撲を取ったりするとやんちゃな姫だと言って説教をするのだ。今度はそなたに飛び蹴りでも習ろうて爺に一撃くわえたいと思うておる、よろしく頼むぞ。
●何を申されます姫、だいたいそんなコロコロした体で飛び蹴りなど出来る訳有りませんぞ。
◎コロコロとは何じゃ、爺のように風が吹いただけでアバラ骨がカタカタ鳴るような体よりよっぽどましじゃ。
▼あのよ〜、俺に喧嘩するなと言っておきながら身内で喧嘩すんのやめてくんねーかな。
◎ははは、そうであったな源太すまなかった。私には二人の大将が居る、一人はここに居るお里で私の知らなかった遊びや村に伝わる民話、更にはわらべ歌や村祭り等色々珍しい話を聞かせてもらっておる。もう一人の大将はにっこりお春と申して日本中を父親と共に旅をしている物知りの大将じゃ。今日から源太は三人目の大将として江戸の遊びや習わしなど教えてくれぬか。
▼大将は一人でねーと駄目だ『船頭多くして船山に登る』と言うことわざを知らねーのか姫は。
◎ほう、利かん坊のわりには洒落た言葉を使うではないか。
▼てやんで〜、おめーだって姫様だと言うからさぞかしべっぴんさんかと思ったら並みじゃねーか。まあ横にいる女よりはちっとはましだけどよ。
△姫、こいつの口に足突っ込んでグリグリしてもいいだべか。
◎ははは、すっとびお竜はこうした男の気質を教えるために源太をよこしたのであろう。もうすこし話を聞こう。源太、話を続けておくれ。
てやんで〜おいらの先祖は8代将軍吉宗様がいろは組の町火消をこしらえるめーからずっと火消をしてきた江戸ではちっとは名の知れた名家だ。その家を継いだ親父から何度も聞かされたのがこの言葉だ、どんなもんで〜。
◎お里はどう思う?
△やっぱり馬鹿だ、江戸にも馬鹿に付ける薬はねーみたいだな。
▼この女ふざけやがって、ぶっ飛ばされたいのか。
△オメーは親から叩き込まれた言葉を偉そうに並べてるだけでねーか。自分で学んだもんじゃねー。そういうのをオウム返しと言って小鳥でも出来ることだ。おらの村にだってもっと沢山の言葉を話すオウムがいるだ。オメーはそのオウムより馬鹿だと言ってるだ。
▼女だからって我慢してりゃいい気に成りやがって。
△男は口先で喧嘩するもんでね〜、文句あんならかかって来い。
   このアマ〜 ボコン ウ〜 ボコボコン ウ〜 ゴツン バコン ギエ〜
   ゴロンゴロン ドテッ ボコボコ グア〜
   ドテン バタン ドスッ ボコボコボコ ズデ〜ン
   ハ〜ハ〜ハ〜     ヒ〜ヒ〜ヒ〜
◎もうよい もうよい そのくらいで一時休戦じゃ。
▼こいつ女か、お前ポコチンぶら下げてるんじゃねーのか。
△そんな邪魔なもんぶら下げるもんか。
▼『てーしたもんだよ蛙のしょんべん』ときたもんだ。
△オメーもさすが火消の息子だ、おらの子分にしてやってもいいぞ。
▼こいつ もういっちょやったろーか。
◎これこれ、ここは城内であるぞ、あっぱれ城では禍根をのこさないのが掟じゃ、よいな源太。
▼便所の火事だ何とでもしてくれい。
◎お里通訳頼む。
△焼け糞だ、どうでもよいと言ってるだ。
◎爺、襖の陰に隠れてなにをしておる。なにか菓子でも持って来てくれないか。
●もう喧嘩は止めてくだされ、大怪我でもされたら私は腹を切らねばなりません。頼みましたぞ。
▼姫様よ、聞いたところによるとあまり外に出られねーから俺達みてーなもんを城に呼んで色々話を聞いているらしいけどさ、何で外に出て自分の目で見ねーんだ。俺達3人の話を聞いたって世間のことなんか爪の先程も分かりはしねーよ、そうだろうお里。
△んだべな〜。
▼姫は猿を見たことあるかい?
◎まだ見たことないの〜
▼この城下町にだって猿に芸をさせて小銭を稼ぐ商売人がいる。その猿の長い尻尾のことを俺から聴いて、猿のまん丸い目のことをお里から聴いて、猿の鳴き声のことをお春さんとやらに聞いたとしてもさ、それで猿がどんなもんか分かるかい?分からねーだろ。ちょっと外に出て一目自分の目で見れば一瞬で猿がどんなものか分かるじゃねーか。『百聞は一見にしかず』だ、これは親から聴いたんじゃねーぞ、偉い坊さんから教えてもらったんだ。
◎爺、今の源太の話を聞いたか。
●はあ?
◎はあじゃない、それになんでそなたは持って来た菓子を一人でパクパク食べているのだ、私達に持って来た菓子であろうに。
●こ、これは失礼いたした、ここに置きますゆえ皆さんでお食べ下さい。
◎そなたも昔は男であったろう。
●今でも私はれっきとした男にございまするが、それが何か?
◎気風じゃ、思ったことを臆せずズバッと言い切る気風じゃ、それが男じゃ、そなたのように加齢臭漂う洒落言葉とはえらい違いじゃ。
●ヘッ ヘッ ヘッ ヘッ
◎何じゃその笑い方は。
●屁が4発でございます。
◎ああ神様、爺を早く迎えにきて下され・・・
●それでは私はこれにて失礼。
◎ちょっと待て爺、すっとびお竜も源太と同じ考えに違いない、あっぱれ城に住んでいながらあっぱれ城の城下町のことを何も知らないで嫁に行ったら井の中の蛙と笑われよう。早速殿に願い出て城下町を散策出来るよう手配をしておくれ。
●は、はい、その〜、前向きに善処いたしましょう。
◎何だその爺のションベンみたいにキレの悪い返事は、さっさと行ってまいれ。
●ああ神様、この城は暴力団事務所になりつつあります。どうぞお助けを。