白髪の王子様の見聞録 ほっこりアイランド

⑱別天地

★ブー太郎 待たせたね

(ブ) あっ! 王子様よくご無事で 心配しておりました

★いやはや お岩塾はお化け屋敷の様なもんだと軽く考えていたがとんでもない まるで暴力団事務所のお仕置き場のようだったよ

(ブ) ボコボコにやられましたか

四谷怪談のお岩だけでなく番町皿屋敷のお菊や牡丹灯篭のお露まで現れて気を失っていた私をお皿や下駄でボッカンボッカン殴ったもんだからとうとう気絶を通り越して天国のお花畑に旅立ってしまったんだよ

(ブ) あれま~ 霊界から天国へとバージョンアップしたんですか スリル満点でしたね

★スリルどころじゃないよ 生死をさ迷っていたんだからね 幽霊は痛みを知らんから殴る限度も知らなかったんだろう

(ブ) でもよく正気に戻ることが出来ましたね

★よくは覚えていないがお花畑に人の良さそうなお爺ちゃんが居たので『花見酒を楽しみたいので清酒を少々とこのお花畑に負けない位の綺麗なお姉ちゃんを2~3人呼んでほしい』と頼んだら 『天国っちゅう処は そんな甘いもんじゃなかんべさ~』と怒鳴られ 気が付いたら其処の原っぱに転がされていたという訳だ 若しかしたらあのお爺ちゃんは天国の神様だったかも知れんな

(ブ) さすが王子様は凄いな~ 天国の神様をパートのお手伝いさんのように扱うなんて

★兎に角ここは長居は無用だ ブー太郎 先を急ごう

(ブ) しかしお岩さんもお菊さんもお露さんも江戸時代からず~と霊界に居るんでしょ そろそろ解放されてもいいと思いませんか

★恨みに治まらず人を呪うようになるとそれ自体が犯罪なんだよ 呪うほうも呪われる方も解放される事はないよ 悲劇だね さあ行こうブー太郎

(ブ) 人間に生まれなくて良かったな~ 豚型だけどロボットで良かった・・ ほら王子様 あの三本杉を左に曲がると吊り橋が有りますからそれを渡れば風光明媚な別天地が待っていますよ

★おいおい その吊り橋は幽霊吊り橋じゃ無いだろうな

(ブ) もう霊界からは脱出できましたから安心して下さい その証拠に幽霊トンネルで失くした片方の靴も今履いてるじゃないですか

★おいブー太郎見てみろよ あの吊り橋誰も乗ってないのに揺れてるじゃないか やっぱり幽霊が揺らしてるんだよ

(ブ) 海が近いので浜風で微かに揺れているだけです 私が先に渡りますから後から付いてきてください

★お~う ブー太郎 海が見えるじゃないか 白い砂浜がキラキラ輝いててまるで海から生まれた宝石のようだ あの砂浜で一休みしようブー太郎 もう少し早く歩けよブー太郎

(ブ) そんなに後ろからせっつかないでくださいよ吊り橋がギシギシと前後左右に揺れてるじゃないですか これじゃ幽霊だって怖がってオシッコ漏らしますよ全く

★お~うブー太郎の言った通りここは地上とは思えぬ別天地だよ なんと素晴らしい眺めだろう 白い砂浜の先には小さな島が幾つも浮かんでいてこちらに向かってくる白波の音は我々を歓迎して出迎える拍手にも感じるではないか

(ブ) 一休みしたら正面の島に渡ってみましょう

★渡ると言っても橋は無いし 小舟も無いしどうやって渡るんだね 泳いで渡るとしてもブー太郎はロボットだから前に進むよりも下に沈むほうのが早いような気がするけど

(ブ) ここは海流がぶつかる処で細かい砂利や貝殻それに珊瑚の欠片等が堆積されて引き潮に成ると歩いて渡れる道が現れるんです ほらもう直ぐですよ海面に白い道が透けて見えてきましたから

★ほ~~う 日本のモン・サン・ミェルじゃないか なんと素晴らしい光景だろう よし決めた あの島に私の城を築こう

(ブ) まだ島に一歩も足を踏み入れてないのに決めるのは早いですよ

★なんのなんの 75年も生きてると目を瞑っててもあの島の光景が瞼の裏に浮かんでくるんだよ さあブー太郎早く行こう ワクワクして踊りたくなってきたよ ホークダンスでも踊りながら渡ろうよブー太郎

(ブ) あの島に精神病院はあったかな?

★おいブー太郎 お前のジョークには棘があるんだよ お前は中年のロボットなんだからもっとマシュマロのような柔らかなタッチでエレガントなジョークを言ってほしいね

(ブ) 自分でもそんなセンスが無いくせにロボットに押し付けないでほしいですね 兎に角足元はデコボコで道も細いですからコケないで下さいよ年なんですから

★その年なんですからも余計なんだよ ところでこの島には道路は整備されているのかね

(ブ) いいえ 四方八方断崖絶壁の島ですから引き潮の時波打ち際に人が二人並んで歩けるような自然の道がたった一つ現れるだけです

★それではこの島に城など造れないではないか

(ブ) 勿論です 猿でさえ時々足を滑らしてお尻を擦りむいているくらいの急斜面ですからとても建築等無理です だから王国の場所として決めるのは早いと申し上げたのです

★それなら何でこの島に渡ろうと誘ったんだね

(ブ) 私が案内したかったのは今はこの島の陰になって見えませんがもう一つお花畑が広がる穏やかな島が目と鼻の先に有るのです その島にも今なら歩いて渡れますから楽しみにして下さい

★ブー太郎も憎い演出をするよな 喜ばせて 泣かせて また喜ばせて・・・

(ブ) ツアーコンダクターのソムリエライセンスを持っていますから

★そんなに鼻の穴を広げて自慢すんじゃないよブー太郎

(ブ) 王子様も私の鼻の穴に負けないよう知識を広げてほしいですね

★前から言ってるようにお前のジョークは棘だらけなんだよ もっとソフトで自然に優しいジョークを言ってほしいね

(ブ) いいえ これはジョークではなく 切なる願いであります 王子様らしい風格も今は有りませんから

★ムムムム ロボットも中年を過ぎるとお説教臭いこと言うから困るんだよな~~

  つづく