白髪の王子様の会話ドラマ あっぱれ城 ⑤ すっとびお竜

すっとびお竜
シュ シュ シュッ
◎なんじゃ今の気配は 背をツバメが横切ったような・・・
☆姫 すっとびお竜にございます。
◎おう お竜 何事じゃ、鼠小僧でも押し入ってか。
☆いえ 鼠小僧はもう捕まりました、振り向いて足元をご覧くだされ。
◎ぎゃ〜〜 へ へ 蛇じゃ〜〜〜
☆もう退治しましたゆえご安心くだされ。これはただの蛇ではなくマムシと言って噛まれたら一時もしないうちに死に至る程の猛毒を持っております。
◎なんでマムシが城内に、敵の仕業か?
☆お城の周辺にはまだ森や藪がございますから門の隙間等から忍び込んだものと思われます。
◎忍び込んだなら賊ではないか、市中引き回しの上即刻打ち首にしておくれ。
☆もう十字手裏剣にて成敗いたしましたのでその必要はありませぬ。
◎そなたにはヨチヨチ歩きの頃から何度も助けてもらってなんてお礼を言って良いやら。
☆とんでもございません、しかしオシメをしたまま庭を駆けずり回るやんちゃな姫も珍しいと思いましたが今でも相も変わらずのやんちゃでうっかり爺もオロオロしているようですが。
◎爺はオロオロが正常なのです。私のおかげで運動不足にならずに健康でいられるのですから感謝してほしいくらいです。
☆ハハハそれでは私が健康でいられるのも姫のお蔭ということになりますね。
◎そうじゃの〜う、これでお互いに感謝ということで引き分けじゃ、ハハハハ ところでお竜は同じ女でありながら何故そのように天空を駆けるごとく俊敏に飛び回ることができるのじゃ。
☆世間の者は忍術と申しておりますが、術など一つもございません、鍛練以外のなにものでも有りませぬ。
◎何処で修行をしたのじゃ。
服部半蔵の名を御存知でしょうか。
◎おう 父上から江戸城半蔵門はその服部半蔵殿の名を取って付けられたと聞いたことがある。
☆よく御存知で、忍者には伊賀・甲賀・雑賀・柳生等多くの流派がありますが私は服部半蔵の本流である伊賀で8年程修行をしてまいりました。明智光秀織田信長徳川家康を同時に殺して天下を取ろうとしましたが、その時家康殿をお守りしたのが服部半蔵を頭とする伊賀者だったのです。家康殿はその恩を忘れず江戸城を築いた時に服部半蔵を召し抱えて城の警護を任せるとともに門の一つに半蔵の名を付けたのでございます。
◎そういう事だったのか、くノ一のお竜から見て私は忍者になる素質があると思うか。
☆さてさて、姫にその素質があったら私はお払い箱となりますがお遊びで試してみましょうか。
◎頼むぞお竜
☆それではここに赤と白の布がございます。これは仲間に無言で情報を伝える大切なものです。私の指示通りに両手に持った布を上げ下げするだけです。
◎分かった、上下するだけなら簡単ではないか、お竜始めてくれ。
☆それではまいります。『赤上げて、白上げて』・・そうそうその調子で、続けますよ『赤白下げて赤あげない』・・・姫、何故赤を堂々と上げてるのですか、私は赤あげないと申した筈ですが。
◎おう そうであった。
☆はい、忍者失格であります。
◎ちょっと待てお竜、たった一度の失敗で失格とは厳し過ぎるではないか。
☆忍者はたった一度の失敗が命取りと成るのです。
◎お竜様、今のは無かったことにしてもう一度だけ試してくれぬか。
☆それではおまけでもう一度だけ簡単な問題を出しましょう。
◎よしよし、今度こそ合格の鐘を鳴らして見せよう。
☆先ずは例題にお答え下さい。『犬はワンワン・猫はニャ〜ニャ〜・それでは馬は?』
◎ヒヒ〜ンじゃ
☆その通りです。それでは本番です。同じような問題ですので私の言葉を良く理解して答えて下さい。『蛙はピョコピョコ・蛇はニョロニョロ・それでは馬は?』
◎ヒヒ〜ンじゃ。
☆ブ〜〜〜。
◎何故じゃ、先程馬はヒヒ〜ンで良いと言ったではないか。
☆先程は啼き声の問題でしたが今度は動き方の問題です。蛙がピョコピョコで蛇がニョロニョロなら馬はパカパカが正解であります。せっかく例題を出してまで姫を応援したつもりですが、残念ながら状況判断能力においても忍者失格であります。
◎それでは私はまるで馬鹿ではないか。
☆はい、お馬はパカパカで姫はばかばかであります。
◎お竜は鬼軍曹のようじゃの、試験は引っ掛け問題ばかりじゃないか。
☆はい世の中の試験は皆同じようなものにございます。
◎ところで、お竜は小股でチョコチョコ走るが何故大股で走らぬのじゃ、足が短いからか?
☆姫の逆襲でござるな、走りながら急に進路を変えて目をくらますには小俣でなくてはできませぬ。敵の攻撃を防ぎながら壁際を横走りするにも小俣のが断然早いのです。
◎駆けるのは私の得意とするところじゃ、その横走りなら私でも合格するやも知れんぞお竜。
☆それでは見せていただきましょう。
◎お竜よく見ておけ、『タタタタ・エイ・タタタタ』どうじゃお竜。
☆そんな欽ちゃん走りじゃオケラにも笑われまする。運動神経も忍者失格であります。
◎やっぱりそうか、うっかり爺に教わったのが間違いだった。ところでこの城には忍者は何人おるのじゃ。
☆8人おります。
◎他の者は何処に隠れておるのじゃ。
☆忍者は常に隠れているのではありません。外を見張るものは商人や町人等に変装して怪しい者を監視しております。
◎ほう それではお竜も変装することもあるのか?
☆はい、不審な動きをする大名の屋敷に女中として入り込んだり岡場所に上がったことも御座います。
◎岡場所といえば娼婦ではないか、そんな危険なこともするのか?
☆男は酒と女の前では心が緩み大事な情報をポロリともらすものなのです。お色気で男を誘惑するのはくノ一の得意とするところであります。姫もそろそろ男の気質を知るべき年頃かも知れませんね。
◎私の前をウロウロしている男はうっかり爺ぐらいじゃが・・
☆あれはもう男ではございません。枯れ木にしがみ付いた枯葉のようなもので風に吹かれてブラブラしてるだけであります。
◎???
☆男心を引き付けるには『チラッ』がよいのです。ガバッはいけません。男を誘惑するにしても女は恥ずかしさを忘れてはなりませぬ、恥ずかしさを無くしたら唯の淫らな女になってしまいます。
◎『チョットダケヨ〜ン』がよいのじゃな
☆そうですそうです、その極意を今日は伝授いたしましょう。先ず初めに・・・おっと誰かこちらに向かっております。私はこれにて御免。
◎あっ、お竜ちょっと・・・ああもう少しでちょっとだけよ〜んの極意を教わることができたのに残念じゃの〜。
●姫、如何なされました、何か残念なことでも? 若しこの爺でよければお手伝いしますが。
◎そなたの『チョットダケヨ〜ン』なんか見たら目がつぶれるわい。
●ハハハハ頭のことでござるか、目がつぶれる程輝いてはおりませぬ、後光と思えばご利益にもなりましょう。
◎どうも話が噛み合わないのう。
●私は歯が3本しか無いゆえ噛み合わせがどうもうまくいきませぬ。
◎ああ、これが泥沼の会話というものか、早くここから出てお嫁に行きたくなってきた。
●姫がお嫁に行く時はこの爺がぴったり付いて行きますのでご安心下され。
◎ああ神様、早く爺を迎えに来てくだされ。
●姫、今日はいい天気でございますな〜ははははは。