13 暗中模索
★ 俺のことをどう思ってるのか今一彼女の心が読めないんだよな~ 暗中模索だよ
◎ その歌なら俺のオハコだぜ
★ 歌?
◎ ヘイヘイホ~と歌いながら木を切るおじさんのことだろ
★ それは与作じゃないか 俺が言ってるのは模索だよ模索
◎ その模索を与作の力を借りて彼女の心を切り開けばいいのさ
★ 何だそれ?
◎ ヘイヘイホ~と与作の歌を歌いながら彼女の心の殻をギコギコ切るんだよ そして中程まで切ったらトントント~ンと叩けばパカッと殻が割れて あれま~スッポンポンの彼女の心が一糸まとわず現れるからそれでお前の悩みは解決よ 目出度し目出度しという訳だ
★ お前に相談した俺がバカだったよ お蔭で暗中模索が支離滅裂になっちまった
◎ 正直言うと 今の俺はお前の彼女の心配なんかしてる余裕なんて全然無いんだよ 来月の資格試験のことで頭の中がアップアップだからさ
★ 気象予報士の試験を受けるとか言ってたけど それか?
◎ ああ
★ 仕事に関係ない資格なんか取ってどうする気だよ 転職でも考えてるのか?
◎ 仕事に関係大有りじゃないか うちは建築会社だぜ 建築現場は常に天候に左右されるんだ 例えば豪雨や大雪 更には竜巻や津波等の危険が予測されたら直ちに該当する現場に知らせて避難や安全対策の指示を出せば人命も救われるし現場の損害も最小限に抑えることができるじゃないか
★ 成程 お前にしては真面な意見を言うじゃないか だけど気象庁の予報を聞けば済むことじゃないのか
◎ 緊急の予報を聞いてなかったらどうするんだよ 仕事中にテレビやラジオを付けっ放しにしてる現場なんか殆どないぞ それに気象庁の予報は一般市民向けの報道であって高所で安全ベルトを使用しながら危険な作業をしてる人への配慮まではしないだろ だから自社専用の気象予報士は絶対に必要なんだよ この試験に合格したら会社に提案して気象予報部を立ち上げてそこの部長に治まるシュミレーションはもう出来てるんだよ
★ やっぱり大義の裏には出世の欲が隠れていたか
◎ 当たり前よ 俺達はお金を貰って働くプロのサラリーマンだぜ プロは会社の利益に貢献し それに相応しい対価と地位を得るのは当然じゃないか
★ 俺は個人的なことで暗中模索だけどお前は意気揚々というか自信満々でうらやましいよ
◎ 活弁し過ぎて喉が渇いたんで缶コーヒーおごってくれないか
★ なんで暗中模索の俺が意気揚々のお前におごらなくちゃいけないんだよ
◎ 意気揚々は喉が渇くんだよ さっき彼女の相談にも乗ってやったじゃないか
★ あの支離滅裂な答えに相談料を払うのかよ 恐れ入ったよ ところでお前は人事部の彼女とうまくやってんのか?
◎ あゝ 彼女の心も日によってコロコロ変わるけど予報士の勉強のお蔭で三日先の彼女の気持ちまで予測出来るようになったよ 明日は曇りのち雨だけど明後日は曇りのち晴れだから明後日の午後デートに誘うつもりさ
★ ハッ ハッ ハッ 俺も予報士の勉強がしたくなったよ ところで試験前なのにデートなんかしてて大丈夫なのか?
◎ 恋は別腹よ
★ そうかいそうかい それじゃ前途を祝して熱々の缶コーヒーをおごるよ
◎ おいおい マスクで熱中症になりそうなんだからアイスコーヒーにしてくれよ
★ それじゃ俺がお金を入れるからお前はそのマスクを目に当ててボタンを押せよ ホットが出るかアイスが出るかはお前の予測次第だぜ
◎ 俺を暗中模索に引きずり込むつもりだな たった110円の缶コーヒーで
★ ハッ ハッ ハッ ご名答
◎ ハッ ハッ ハッ このやろう
おわり