白髪の王子様の会話ドラマ 時空神社シリーズ 初代林家三平 ⑤三平一門なんですから

⑤三平一門なんですから
◎三平さんは死ぬ間際に医者から意識を確かめる為に『あなたのお名前は?』と聞かれ『加山雄三です』と答えたそうですが本当ですか
☆ハハハハ 本当ですよ 枕元で医者と家族がコソコソ話してるのを聞いていたら医者が『このまま昏睡状態に陥ったら長く持っても2〜3時間だと思います』と言いながら私に向かって『あなたのお名前は?』と聞いたもんだから『加山雄三です』と答えたんですよ
◎ハハハハ 皆さんビックリしたでしょうね
☆一番ビックリしたのは医者でしたね『持っても2〜3時間』と言ったのを慌てて『2〜3年』と言い換えようかと口をモグモグさせてましたよ
◎最後の最後までお笑い芸人でしたね 
☆私の至福の時間は皆さんの明るい笑顔と笑い声でしたからね
◎三平さんは落語協会が分裂騒ぎとなった時どちらにも所属しないで一匹狼として活躍されていたんですがそのまま早世されたもんですから残されたお弟子さん達は落語界の孤児となってしまい大変な苦労をしたようですよ
☆これは『どうもすいません』では済まされない大変な問題でしたね 
◎一番弟子の林家こん平さんが中心となりおかみさんと協力しながら落語界の孤児となった林家三平一門の解散を免れたのは一門団結の成果だと言われています
☆こん平はですね 私がまだ二つ目の頃に弟子にしてくれと家に押しかけてきたんですよ 二つ目じゃまだ弟子を抱える資格はないので断ったんですが翌日米を一俵担いで来ましてね何でもいいから置いてくれと押し売りの権化の様相で睨むんですよ それでも断ろうとしたら女房の香葉子が米俵に抱き着いて離さないんですよ 二つ目の貧乏所帯でしたからね それで仕方なく一つ屋根の下で暮らすことにしたのです そのこん平の世話になるとは香葉子の目は正しかった訳ですね
◎ご長男は9代目の林家正蔵となり ご次男は2代目の林家三平を引き継いで人気番組の笑点で活躍されていますよ 万々歳じゃないですか
☆ほう 笑点の番組は談志が創ったようなもんですが あれに出られればたいしたもんですよ
◎それが笑点のメンバーにはこん平さんの弟子であるたい平さん 更にはこん平さんと一緒に三平一門を支えた木久扇さんも出ているんですよ 孫弟子を含めて三平軍団が3名も笑点に出演するなんてアグネスチャンもびっくりですよ
☆何でそこにアグネスチャンが出て来るんですか アグネスチャンも歌が売れなくなって落語家になったんですか
◎いえいえ 彼女は今や自分の息子3人全員をアメリカ屈指の名門校・スタンフォード大学に入れた教育ママとして有名なんです 落語家にとって笑点に入ることはスタンフォード大学に入るようなもんですよ そこに3人も送り込んだんですからおかみさんは鼻が高いでしょ
☆問題は入ることよりも卒業してからだね 弟子達も笑点で満足してたら大成しないと思いますよ
◎アグネスチャンの子供達3人はシリコンバレーでそれぞれ活躍しているそうです
☆ほ〜う 世界の3大バレーと言えばロシアのボリショイバレーとイギリスのロイヤルバレーそしてアメリカのシリコンバレーですから そこで活躍するなんてたいしたもんですよ
◎三平さん 何か勘違いしてませんか 三平さんの言うバレーって 男はモッコリ丸出しのぴっちぴちのズボンを履き女はパンツ丸出しの短いスカートを履いてつま先でピョコピョコ踊るバレーのことですよね
☆あなたの表現を聞いていると屋根屋の汚れたフンドシを見上げてるようで食欲も無くなりますね ひょっとしてあなたは下ネタが好きじゃありませんか
◎はい大好きです
☆そうだと思いましたよ 年のわりに顔は脂ぎっているし目は階段の下から覗くような眼つきだし
◎ちょっと待って下さいよ三平さん 私はお説教を聞きに来たんじゃなくてインタビューで伺ったんですから
☆私が弟子たちに厳しく注文したのは『下ネタだけは絶対にするな』の一言だけです
◎それはいったいどういう訳で?
☆下ネタを言えばお客様は簡単に笑ってくれます それに味を占めるともう面倒くさい古典や自分の味や個性を生み出そうとする努力を欠いてしまい堕落してしまうからです そんな芸人を山ほど見てきましたから
◎成程 でも下ネタも悪くないと思うんですが いけませんかね
☆若しあなたが幼い女の子のお子様と一緒に落語を聞きに来たとします その時下ネタ連発の落語を聞いてあなたは何の恥じらいもなくお子様の前で大笑いできますか? 好きな彼女と一緒に落語を聞きに来て下品な下ネタで大笑いできますか? 下ネタの笑いはお客様にとっては後味の悪い笑いなんです けして心晴れ晴れとした笑いではないのです 下ネタオンパレードが許されるのはスケベ親父だけの宴会に招かれた時ぐらいなもんでしょう
◎そこまで様々なお客様のことを考えながら舞台に立っていたとは思いませんでしたね
三波春夫さんが『お客様は神様です』と言ったとか言わなかったとかで話題になりましたが私は自分が神様になろうと心に誓ったのです
◎えっ? それでは織田信長と一緒じゃないですか
☆戦国時代の日本を統一して平和をもたらそうとした信長と会場に足を運んでくれたお客様に喜んでもらおうとした私とでは雲泥の差で比べようもありません 私の言う神様はお客様に出来るだけ多くの笑顔を与える神様です あなたは今年初詣にいきましたか
◎はい 地元の神社へ
☆そこでどんな願い事をしたのですか
◎月並みですが家族の健康と安全と私の仕事が順調に運ぶようにと・・・
☆それで如何程賽銭箱に投じましたか
◎ポケットにあった10円玉一個と5円玉一個です
☆あなた神様の気持ちになってごらんなさいよ たった15円で家族全員の健康と安全を守り更にはあなたの仕事のことまで頼まれたらそれだけで一年中走り回って寝る暇もなくなってしまいますよ 私達人間のパート代だって時給800円以上貰っているのにたった15円でよくもそんなに沢山のお願いごとを言えたもんですね
◎どうもすいません 今後気を付けます
☆その点落語を聞きに来るお客様の願いはただ一つ『朗らかな気分を味わいたい』ただそれだけのために財布から千円札を何枚か出して木戸銭を払うのです その時千円札に向かって『さよなら また俺のところに戻って来るんだよ』なんてしみったれた口上なんか誰も言いませんよ
それに木戸銭を払う時に『家内安全もよろしく』なんて欲張りなことを言う人もおりませんよ
◎分かりましよ三平さん 私を藪睨みしながら話さないでくださいよ
☆そんなお客様に精一杯の演技を披露して朗らかな笑顔になってほしいと願う気持ちは笑顔の神様の気持ちと同じだと思うのです しかし私も生身の神様ですからたった15円の木戸銭じゃそんなに一生懸命汗水垂らして演技なんかしませんよ 女房が又米俵にしがみ付きますから
◎地球でお暮しの皆様 5円や10円のお賽銭であれもこれもと10分も20分も願い事を言うのはやめましょう 15円ぐらいでは神様は動かないそうです 三平の神様がそのようにおっしゃっておられました
☆ちょっと君君 そこで私の名前を出すのは止めて下さいよ
◎これにて天国からの中継を終わります それでは皆様ご機嫌よう
☆ちょっと 君待ちたまえ 神様も大変なんですから 本当なんですから