白髪の王子様の会話ドラマ  時空神社シリーズ 石川五右衛門 ⑦闇の処刑

⑦闇の処刑
△五右衛門殿 トイレは今でもポッタン ポッタンなんですか?
◎何のことだトイレとは
△今しがた五右衛門殿が行かれた厠のことです 現代では便所とかトイレと呼ぶのが一般的です
◎そのトイレとはバテレン語か?
△いえ違いますが五右衛門殿はバテレンを見たことが有るのですか?
◎京や大阪を行き来していた時に出会ったことがある 野次馬が遠巻きにしてバテレンバテレンだと騒いでおった 一人は背が高く白い顔をしていたがもう一人は逆に真っ黒な顔をしており まるで碁石の白と黒が一緒に歩いているようで滑稽であった
△若しかしたらそれはフロイスかも知れませんよ フロイスが黒人の奴隷を従えて織田信長に会うために安土城に向かっていたのかもしれません 役人は同行してなかったですか?
◎そう言われれば前後に一人づつ役人がバテレンを守る様に随行しておったな
△すごいな〜フロイスと出会ったんだ それは間違いなく信長と親交の深かったフロイスですよ 奴隷の黒人は確か信長に献上された筈です
◎確かにその頃は未だ信長は生きておったがバテレンと逢ったのは其の者一人ではないぞ 皆同じように背が高く白い顔をしておったが衣裳も髪型も全然違っておった
△そうですか まだ信長が健在の頃はフロイス以外の宣教師や貿易商の者も許可をもらって自由に行動しておりましたから出会ったのはその者達の一人でありましょう 若しかしたら五右衛門殿が出会ったそのバテレンが三条河原で五右衛門殿が処刑されるのを見た可能性があります バテレンが書き遺した日本の出来事の中に五右衛門殿の処刑について詳しく書かれたものが有るのです
◎やれやれ 俺様の悪事の結末が京や大阪だけではなくバテレンの国まで知れ渡ったか 
△その様ですな これこそ天下一の大泥棒が証明されたようなものです さて五右衛門殿 トイレに行かれてスッキリしたところで大阪城の地下牢での話を続けて頂けませんでしょうか
◎その前にトイレはバテレン語では無いとお主は申したがそれでは紅毛人語か?
バテレンとか南蛮人とか紅毛人とか色々と呼び分けておりますが 誰がどこの国の人かを見分けられる日本人は殆んどおりませんでした トイレの語源はそれらの国では無く五右衛門殿が処刑された後 約200年近くも後に誕生した新しい国であるメリケン国の言葉から引用されたものです  
◎我が国は神代の代から累累と受け継がれてきた神聖な国であるぞ それなのに何故そんな新参者である国の言葉を軽々しく使うのじゃ 天照大御神に申し訳ないと思わぬのか
△トイレの話に天照大御神を持ち出すのはちょっと大袈裟過ぎると思いますが話せば長くなる色々な事情が有りまして今ではメリケン語が多く使われるように成りました
◎どうも納得しがたいの〜 
△トイレとかWCとかレストルームのようなメリケン語も使われるようになりましたが どうしてどうして日本語も負けてはおりませんよ 古い言い方では雪隠・手水場。はばかり・ご不浄等と呼ばれておりましたが最近では便所・お手洗い・洗面所・化粧室等と日本語も頑張っております 隠語を含めれば50は楽に超える呼び方があります 
◎そなたは厠についてやけに詳しいがそなたの王国はトイレ王国でそこの王子を務めておるのか?
△とんでもありません そんな臭い王国では有りません 深呼吸の出来る清々しい王国であります
五右衛門殿臭い話は其の位にして大阪城の地下牢での話の続きをお願いします
◎さようか それでは地下牢の厠について話すことといたそう かなり臭い話だから鼻を摘まんで聞くがよい
△いえいえ もう厠の話は満腹です どうか五右衛門殿が涙を流した経緯を教えて下さいませ
◎さようか 思い出すのも辛いが話さねばならん事かも知れんのう 堀に落ちた時に死んでおれば知らぬが仏であんな辛い思いをしないで済んだものを ・・・・・
世間の人は俺様が大名等の権力者から人を殺さずに盗みを働いたことから義賊とよんで喝采を送ってくれた 然し実際には我々の悪事によって見えないとこるでとんでもない闇の処刑が行われていたのだ 然も多くの善人の人々が・・・・・
△地下牢でそれを見たのですね
◎我々が地下牢に運ばれた時は溺れる程堀の泥水を飲まされたあげく角材で気を失う程滅多打ちにされた為半死の状態であった このまま死ぬのかと思ったら不思議と心が安らぎ雲の上にふんわりと腰かけているような気分になった(地獄にも空があるんだ)そんな幻想の中を漂っていた時何処からか女の声が聞こえてきた それも一人や二人ではない大勢の女達が何かを叫んでいる そこで現実の世界へ引き戻されてしまった 俺達が押し込められた牢は長屋のように一列に連なっており 女達の声はその奥から漏れて来たもので耳を澄ませば次第に何を叫んでいるのか聞き分けることができた
『治部少殿に逢わせて下され 私達は治部少殿 石田三成殿の命にて盗賊共の相手をしたまでで私共には何のとがもありませぬ お願いでございます治部少殿にお伝え下さいませ』大勢の女達の叫び声は皆同じであった しかし牢番はゆっくりと然し力強い声で言い放った『我々は何があったかは知らぬがそなた達を投獄したのはその治部少殿の命と聞いておる』その一声で牢内はシーンと静まり返ってしまった 失望のあまり声を失ってしまったのであろう 可哀そうに
△それは私にも納得できませんね 三成の命でいやいや五右衛門殿と仲間の世話をしたのに何で彼女達が牢に入れられなければならないのですか 悪いのは五右衛門殿達じゃありませんか
◎そうあけすけに言うな そのことで俺様も心を痛めておるのだ 女達は我々が占拠した秀吉の寝所に呼ばれたのだ 当然そこには我々に捕らわれ手足を縛られて転がっている秀吉の姿が目に映ったであろう そのことが他言され噂が城外に漏れようものなら秀吉は庶民の物笑いとなり秀吉の権威も地に落ちてしまう そうなれば大名達からの信頼もなくなり秀吉政権も危うくなってしまう だから口封じのために投獄したのさ 三成の必至な形相が目に見えるようじゃ
△その後彼女達はどうなったか御存知ですか?
◎我々より先に殺された
△えっ?嘘でしょ そんな・・・・
◎生死をさ迷っていた俺が次に目を覚ましたのはザワザワとした物音によってだった 格子に顔を付けて音のする方を覗いて見たら戸板に一人づつ女の死体を載せて運び出しているところであった たぶん毒殺されたのであろう それを見たとたん俺は牢獄が揺れんばかりの大声で泣きわめいてしまった 牢番が飛んで来て俺の顔を足蹴にしたが俺は格子から顔を離さず御免よ御免よと戸板に横たわった艶やかな着物姿に叫び続けた・・・(何が義賊だ自分が手を掛けなくても目に見えないところでこんなに多くの善人を殺しているではないか)今度は自分に向かって叫んでいたのだ
△それは辛いですね
◎その後牢番の者も姿を消してしまった 女達から事件の様子を知った可能性があるから闇で始末されたのであろう 三成がそこまで徹底して我々の所業を葬ったからこそ秀吉政権は死ぬまで安泰であった訳よ 
◎俺はその報いであろう 捕まれば自分だけが磔か打ち首になるであろうと思っていたが家族や親族の者まで俺と同じ釜ゆでの刑で死なせてしまった 俺は愚か者よ大名屋敷にも何度か忍び込んで一人も傷付けることなく小判を懐に逃げおうせたが我々の目の届かないところで見張り番や警護の責任者が腹を切らされていたに違いないのだ そんな事すら気付かずに義賊気分に浮かれていたのだ 情けないことよ
△目に見えることは氷山の一角だというですね
◎白髪の王子殿 上に立つ者は短慮であってはならぬ 荒木村重も関白殿も俺様と同様短慮であったのであろう 其の為に多くの善良な人々が尊い命を失ってしまったばかりか数知れない程の下臣達が路頭に迷うこととなってしまった 三条河原や六条河原での処刑は庶民への戒めではなく人の上に立つ者への戒めであったのだ そなたも王子であれば上に立つ者じゃ アホ面して聞いてないで馬鹿な俺の教訓をしっかりと胸に刻み込むがよいぞ
△アホ面は余計ですが五右衛門殿にお会いでき こうして私の下手糞なインタビューに答えて頂き感謝しております この話を五右衛門殿の末えいが聞いたらさぞかし喜ぶことでしょう
◎今、何と申した 俺様の血を受け継いでいる者がおるのか 家族だけでなく親戚一同子供を含めて全て処刑された筈だが
△ちゃんと活躍されてますよ
◎それでは今度は俺様がそなたにインタビューする番じゃ 良し又酒でも飲もう そなたも飲んで良いぞ
△待ってました 心ゆくまで飲みましょうぞ

続く