白髪の王子様の会話ドラマ 野放し診療病院 ③肝っ玉看護師の患者

③肝っ玉看護師の患者
●先生 何時もお世話様です
◎おや 誠君のお母さんかえ 丁度よかったばい 庭を見て下せ〜 誠君えろ〜頑張ってるだに
●あら 車椅子に座っているのは誠ではなくてよそのお嬢さんですね
◎んだ あの子は由香ちゃん言うて交通事故で両足を骨折したもんでリハビリ中なんだべや
●それで誠は何をしてるんだべや? あらいけない先生につられちゃったわ
◎ハハハハ 私は埼玉生まれの埼玉育ちなもんで中々方言が抜けないで困ってるだや 埼玉は東京以外にも六つの県に接しているもんだから方言も色々混ざくっちゃってちゃんこ鍋みたいなもんだ 聞きずれ〜と思うが勘弁してくれろ
●この秩父大自然にマッチして素敵だと思いますよ
◎マッチとはタバコに火を付ける赤い頭のあれのことかえ?それともギンギラギンを歌う歌手のことかえ?
●またまた先生はとぼけて 誠はあそこで何をしてるのか教えてくれませんか
◎見てのとおり由香ちゃんの車椅子を押っぺしてるだや
●えっ だって誠だってまともに歩けないんですよ
◎だから目ん玉おっぴろげて良く見ろと言ってるだ 誠君は少し押っぺしては車椅子に寄りかかって休み又少し押っぺしては休みながらゆっくり歩いてるからで〜じょうぶだ それに由香ちゃんはまだ5歳で軽いから誠君にとっても良いリハビリだべや
●でも心配ですわ 誠の骨は折れたら中々繋がらないと聞いておりますので
◎確かに誠君の骨密度は平均の70%を下回っており今の医学では回復どころか現状維持も難しい難病の一つです 残念ながら誠君が好きなサッカーをするのはもう無理だと思います でも骨を丈夫にするには骨にある程度の負荷を加えないと益々弱くなってしまいます 足を動かすことによって骨を支える筋肉も強くなるんですよお母さん
●そうですか でも見ていると今にも折れうで心配ですわ
◎私でも気を張れば今のように標準語で話せるんですがえらく疲れるんで元に戻しますよ
お母さんよ しんぺ〜したって何の役にもたたね〜だぞホタルの屁のようなもんだべや しんぺ〜するより信頼しておやりなせ〜 信頼されれば本人は自信を持って前に進む勇気が出ると言うもんだべさ 私は外科医でもあるし接骨医でもあるから安心して思う存分歩くよう誠君には言ってるんですよ
●でもよく誠がお嬢ちゃんの車椅子を押す気になりましたね
◎誠君と由香ちゃんはリハビリで何度か一緒になり仲良くなったんです 由香ちゃんはすっかり誠君を気に入り自由時間に誠君を見つけるとお兄ちゃんお兄ちゃんと呼んで近づき良くおしゃべりしてたんですが最近は二人で散歩するようになったんです 由香ちゃんのご家族は由香ちゃんを残して全員交通事故で亡くなってしまったんです 退院したらお婆あちゃんちに引き取られるそうですが・・・ 誠君はそんな由香ちゃんの役に立つのが嬉しいんですよ 遠くに見える二本の松の手前に小さなプチ動物園が有るんですがどうやら二人でそこまで行く約束をしたようなんです それで誠君は毎日少しずつ遠くまで歩けるよう頑張っているんです
●そうですか あの我儘な誠が 信じられませんわ
◎誠君は強がっていますが入院してからは多くの人に迷惑を掛けっぱなしだしサッカー選手になるという将来の目標も夢も無くして絶望感で気力も失せていたようです それが今では由香ちゃんをプチ動物園に連れて行くという目標が出来たんです しかも由香ちゃんのリハビリも手伝って二人で手を繋ぎ歩いて行くつもりなんです すごいでしょ
●そんな姿が見られたら感動ですね
◎で〜じょうぶだよお母さん 二人のリハビリに取り組む姿は感動的だよ 二人で涙を流しながら激痛に耐え そして顔を合わせると笑顔を見せ合いながら必至で頑張ってるだ それを見たらもう私の出番は終わった気がしましたよ これからは誠君を介護し治療するのは私ではなく由香ちゃんの笑顔とプチ動物園と誠君の由香ちゃんの役に立ちたいと思う強い意志なんです そういうことで私はお払い箱で暇になりましたんで喫茶室でコーヒーでも飲みませんかお母さん 私がおごりますから
●あら よろしいんですか?
◎ハハハ安心してくんろ 喫茶室のコーヒーは80円でごあす
●あら その『ごあす』は鹿児島弁ですよね
◎これはテレビで覚えたもんさかい気にせんといてや おばはん
●先生の方言はメチャクチャでござりまするがな〜もし〜
     ・・・・・・・・・・
◎誠君 今見舞いに来てくれたお姉ちゃん可愛いじゃん 誠君の彼女かい?
△そんなんじゃないよ サッカー部のマネージャーだよ
◎へ〜 男のサッカー部にあんな可愛いマネージャーが居るんだ それじゃ皆んな頑張っちゃうよね
△月に一度試合結果や近況を報告に来てくれるんだ
◎メールじゃなくてわざわざ東京からこんな埼玉の奥まで来てくれるなんて彼女は誠君のこと好きなんじゃないかな
△そんなこと無いよ 彼女は俺より一つ先輩だし
◎それじゃ誠君が彼女を好きなんだべ
△うるさいな おばちゃん向こうに行っててよ
◎おばちゃんはないだべ 私にはちゃんと『おなべ』と言う名前があるんだよ でも本当は田鍋というんだけどさ 皆んなが『おなべさん おなべさん』と呼ぶもんだからいつの間にか『おなべ』になっちゃったんだよね 何でだろうね
△体型がお鍋にそっくりだからじゃないの
◎おいこら 今日はやけに突っかかるでね〜か はは〜ん 分かったぞ 彼女を好きなことを私に見抜かれちゃったからテレ隠しでツンツンしてるんだべ かわゆ〜〜い
△ね〜 おなべのおばちゃん 何しに来たんだよ 用が有るんなら早く済ませてよ
◎はいはい それでは体温を計るからお尻を出してくんろ
△何で体温を計るのにお尻を出すんだよ
◎馬だって牛だって肛門に体温計をぶっ込んで計るんだべさ
△俺を馬や牛と一緒にしないでくれよ おなべ先生は獣医じゃね〜だろ〜 昨日は親父ギャグの連発で疲れちゃうしよ〜・・・
◎冷て〜言い方だこと そんな言い方してたら彼女に嫌われるよ 彼女が一年先輩ということはもう来月は卒業じゃないの 若しかしたら今日が最後のお見舞いじゃないのかい誠君 
△・・・・ああ・・・・
◎それでいいのかい?もう一生会えないかも知れないんだよ あんた彼女が嫌いなのかい?それとも何とも思ってないのかい?
△そんなこと無いよ 好きだけど俺こんな体だし・・・
◎馬鹿言ってるんじゃね〜だ 体が悪かったら人を好きになっちゃいけね〜のかい?それじゃ此処に入院している人は皆んな人を好きになっちゃいけね〜のかい誠君よ
△そんなこと言ってないよ
◎そうだろ 人を好きになるという感情は愛とか恋とは次元の違う純粋な心の叫びなんだよ 年齢に関係なく生きてる人間の心の叫びなんだよ その気持ちを若いうちから無理やり抑え込んじゃうとあんたは無表情のつまらない大人になっちまうよ 彼女とはメール交換できるんでしょ 今直ぐ見舞いのお礼と自分の気持ちを伝えなさい 東京に着く前に伝えないと遅くなればなる程彼女の心を捕えることは難しくなるよ
△でも何てメールを送っていいか分からないよ
◎馬鹿だね〜サッカーボールを飛ばすだけの為にそのでかい頭が有るんじゃね〜ぞ 私が幾つかヒントを上げるから参考にしな 
1、今迄何度も見舞いに来てくれたことに感謝 そして嬉しかったことを伝える
2、カヨちゃんだかミヨちゃんだか知らないが名前で呼び掛けること
3、高校合格を祝い高校に入ったらどんなクラブに入るつもりか聞いてみる
4、どんな制服かピッカピカのセーラー服姿を見てみたいとの思いを伝える
5、夏祭りの花火大会を一緒に見に行きたいと五か月先のデートを申し込む
まあこんなもんでいいんじゃないかな
△有難うおなべ先生
◎おやま〜ようやくおなべ先生と言ってくれたね だけど一つだけ約束しておくれ 若し振られちゃったとしても相手を恨んじゃいけないよ 僅かな期間だったとしてもその間ほのかな夢と希望を与えてくれたんだから感謝しないとね その感謝の気持ちを持てないやつらがストーカーに成って事件を起こすんだよ 分かってるね
△ああ わかってるよ
◎さあ それじゃ直ぐにメールしな その代わり私のヒントをそのままパクッたらコーヒーを御馳走してもらうからね
△いいよ おなべ先生
     ・・・・・・・・ 
△おなべ先生 コーヒーおごるよ
◎おやっ 私をナンパする気かい
△違うよ この前教えてくれたメールのヒントを少しパクッたから約束通りコーヒーをおごるよ
◎あんれま〜 それじゃドレスに着替えてこようかしらん
△何言ってんだよ そこの80円のコーヒーだよ
◎なんだ 銀座にでも連れてってくれるのかと思ったべや ところで彼女いい返事くれたかい?
△まあね
◎『まあね』じゃわかんないだろうに 花火のデートはOKしてくれたかい?
△あゝ 浴衣を着てくるって そして俺の車椅子も押してくれるって
◎やったじゃん色男 だけどさ 彼女に車椅子を押してもらったら彼女の顔も見られないし手も握れないよ それじゃつまんないだろ お祭りまであと五か月あるから少しでも長く歩けるように頑張らないとね 
△うん 由香ちゃんとプチ動物園まで歩いて行く約束もしてるし
◎素敵な彼女が二人もいるのに私とデートしていいのかい
△デートじゃないよ 約束だよ
◎ハハハ そうかい 誠君が彼女に振られたら私が誠君のお嫁さんになってあげようかなと思ってたんだけど残念だばい
△おなべ先生は俺のお母さんより年上じゃん
◎愛が有れば年の差なんか関係ないだべさ
△愛なんかぜんぜん無いよ ぜんぜん
◎ぜんぜんを二度も言うことなかんべ 生意気言うとその足蹴飛ばすよ あれっ 誠君あんたの足ふっくらしてきたじゃん これ筋肉だよ 骨を守ってくれる筋肉だよ すごいすごい誠君頑張ったね〜
☆おなべ先生まだですか
◎おや由香ちゃん 何か用かしら?
☆お兄ちゃんと散歩したいのに先生が中々離れないから・・・
◎これはこれは邪魔しちゃって悪かったね あれっ由香ちゃん車椅子は?
☆そこに有るよ
◎えっ? それじゃ此処まで歩いたの
☆そうだよ
◎わ〜〜〜っ由香ちゃん やったよやったね すごいよすごいよ由香ちゃんも頑張ったもんね〜〜
☆先生泣いてるの?
◎誠君も由香ちゃんも涙を流しながら頑張ったんだもん先生だって泣いてもいいだんべ ア〜ア〜ア〜ウッウッウッ ワ〜〜〜〜〜ッ
                  終わり