白髪の王子様の会話ドラマ 野放し診療病院 ②ぶりっ子看護師の患者

②ぶりっ子看護師の患者
◎小柳さんお早うございます ご機嫌いかがですか
△どう〜かな〜今朝の天気みたい
◎成程 晴れだか曇りだかどちらとも言えないということね でも天気予報の曇りは空全体の8割以上を雲が覆った場合ですから今朝は晴れですよ 庭に出て御覧なさい雲は空の半分もないですから
そういう事で小柳さんの気分は上々ということになります 良かった良かった
△ブリブリ先生は何時も能天気で羨ましいな
◎ちょっと その能天気ってどういう意味かしら
△ブリブリ先生はぶりっ子ぶってるけど30歳はとっくに過ぎてますよね
◎が〜〜ん その『とっくに』という言い方は胸にドカ〜ンと響くんだよね
△おまけにまだお嫁に貰ってくれそうな人が全然いないそうじゃないですか それなのによくもぶりっ子しながら呑気に生きていられますね
◎余計なお世話ですよ小柳さん 人の心配するよりも自分の心配して下さい 患者さんはあなたなんですから
△そうだけど先生もぶりっ子病の患者さんみたいで治療が必要だと思うんだけどな〜
◎男は顔で笑って心で泣くらしいけど女は顔で笑って心で復讐を誓うことはあんたも女だから分かるよね ヒッヒッヒッ
△気味悪い笑い方しないで下さいよ まるで真夜中に包丁を研ぐオババみたい
◎ハハハ 私の前ではそんなに元気で愉快な会話が出来るのになんで小柳さんはウツ病なんかになっちゃったんだろうね
△自分でもよく分からないんです 大きな病気をした訳でもないし 失恋した訳でもないし 意地悪や虐待を受けた訳でもないのにある日突然憂鬱になって何もする気がなくなり家に閉じこもってしまうんです 親からするとこの子は自殺でもするんじゃないかと思える程深刻な様子に見えたらしくって大学病院に連れて行かれてそこでウツ病だと診断されたんです 月に一度薬を貰って診察を受けるんだけど一年たっても良くならずに再発したので友人の紹介でこちらにお世話になったんです
ウツ病はよく心の病だと言われるけど小柳さんの心はとても優しくて乙女のように清らかで自慢してもいいくらいに素敵ですよ ただちょっとだけ人よりナイーブで感じやすいだけなの
小柳さんが初めてこの診療所を訪れた時院長先生と一緒に同席したのは私が精神科医だからなのよ その私が必ずあなたは治ると信じたから入院してもらったの 院長先生も同じ意見だったから安心しなさい その証拠に私とこんなに明るく話せるように成ったじゃない
△有難うございます
◎あらっ その有難うございますってどういう意味かしら
△どういう意味って聞かれても困るけど 感謝してるということだと思います 入院して一ヶ月ちょっとですがブリブリ先生とも冗談が言えるように成ったし自分でも少しずつ良く成ってる気がするんです
◎やった〜 小柳さんやったよ〜 小柳さんの病気を治すのに一番大切なことは感謝する気持ちを持つことなのよ それだけ心にゆとりが出来た証拠なの 病院に連れてってくれた親に感謝 長期休暇を認めてくれた会社に感謝 この診療所を紹介してくれた友人に感謝 そして私みたいな素晴らしい医者に巡り合えたことに感謝とかね
△ふふふ
◎何がおかしいのよ
△最後の感謝はどうかな〜と思って
◎おい 小柳 ちょっと表に出てもらおうか
△表に出てどうする気ですか
◎私への感謝を無視した罰として私の歌を3曲聞きなさい
△朝っぱらからきついな〜 先週ブリブリ先生のカラオケ聞いたら3日も便秘に成っちゃったんですよ
◎それはね私の振り付けで一緒に踊らなかったからですよ 音楽は体全身で楽しむことが大切なんですよサンバのようにね 犬だって散歩で体を動かしたとたんにウンチするでしょ 小柳さんも私の振り付けで踊ればすぐにバケツ一杯位出るから試してごらんよ
△いくらなんでもバケツ一杯までは溜めてませんよ ハハハハ
◎いいね その笑顔だよ小柳さん あんたの悩んでる顔はおブスさんだけど笑えばなんとか見られるから安心しなさい
△ちょっと先生 それってちっとも誉めてないよ
◎まあ気にしない 気にしない ところで小柳さん 感謝の気持ちを感じたら次は何をすべきかしら
△そうね今迄迷惑を掛けた分恩返ししなくちゃいけないよね
◎やった〜小柳さんやったよ〜
△ブリブリ先生さっきからちょっとオーバーアクションですよ 何を喜んでるのか全然分からない
◎今までのあなたは自分のことばかり考えていたのよ 気付かなかったと思うけど
『自分はなんて不幸な人間だろう』とか『自分なんか居なくてもいいんじゃないか』とか『自分は何のために生まれて来たんだろう』とかね
△言われてみるとそんな気もします だって他人のことなんか考える余地なんか全然なかったもん
◎小柳さん この大自然を御覧なさいよ じっとしていると自然に抱かれているような気分になっていつの間にか悩みも治まってくるのよ不思議ね 私達もこの自然に癒やされているの だからこの診療所の先生は大自然で私達はその下でお手伝いする看護師なんです 小柳さんに知ってもらいたいことは苦しんでるのは小柳さんだけではないのよ 今では三人に一人は何らかの精神異常を患っていると言われているの 例えばサザエサン症候群とかピーターパン症候群とか燃え尽き症候群とか青い鳥症候群とか聞いたことあるでしょ
△ええ
◎最近では携帯とかスマホを持って無いと不安で何も手に付かないというブランケット症候群も立派な精神的な病なんです それからパニック障害とか拒食症のように一つ間違えれば死に至る病気も何らかのストレスが原因の精神的障害なの ウツ病も様々な症状があるけど小柳さんを苦しめたウツはこの大自然に癒やされて少しずつ溶けているみたい よかったね 
△何だか まだ不安だな
◎退院しても暫くは月に1〜2度は通院しなくては駄目ですよ そしてこの大自然の中に身を預けてのんびりリラックスするの その後は私の歌を聞いて一緒に踊ればストレスなんかどこかに飛んで行っちゃうわよ
△いえ 先生の歌と踊りは遠慮させて頂きます そんなとこを誰かに見られたらとうとうあいつは狂ったかと思われますから
◎おい小柳 表に出てもらおうか 
△ここは外じゃないですか
◎そうか そうだよね それじゃ今月末の退院を祝して馬に乗せたあげるよ 馬上から見る景色は格別だよ
△やった〜 本当ですか ブリブリ先生素敵〜
◎ふん こういう時だけ素敵かね その代り私が馬を引きながら大声で歌うから一緒に歌ってもらうからね
△は〜あ〜
◎何ですかその溜息は
△馬が可哀そうかと思って・・・
◎アハハハ おい小柳 お前はもう病人なんかじゃ無い 荷物をまとめてとっとと出て行ってもらおうか
    ハハハハ ハハハハ ハハハハ

                        終わり