白髪の王子様の会話ドラマ あっぱれ城 ⑨ 巣立ち

巣立ち
◎失礼します。父上と母上がお揃いでお呼びと聞きまして伺いました。
☆おう、ぽっちゃり姫、今日は一段と顔色も良く艶やかで美しいの〜う。
◎母上から化粧品を一式揃えていただき見よう見まねで繕うてまいりました。
☆さようか、幼き頃は紅を顔中塗りたくって赤鬼のような顔して喜んでおったが月日の経つのは早いものじゃ。
ところでそなたを呼んだのは外でもない、目出度い話じゃ。白樺城からご嫡男である信清殿の嫁に是非とも姫を頂きたいという話が有り、その正式な使者がこちらに向かっておるそうじゃ。姫は信清殿と直接文を交わしておるそうじゃがそのような事は書かれておらぬのか。
◎はい、近頃は度々、先日も『女力士などに成らずに拙者の嫁になってほしい』との文を頂きました。
☆ほう、それで姫は何と返事を書いたのじゃ。
◎はい、『貴方様が迎えに来るのを四股を踏みながらお待ちしております』と。
☆アッハッハッハッそうかそうかアッパレじゃ、アッハッハッハッ、これで一安心じゃな奥。
◇はい、新年早々誠にお目出度い話で嬉しゅうございまする。
☆姫には今迄何も言わなかったがこれまでにも他家から二度程そなたを嫁にほしいとの話はあったがお断りしてきた。
◎相手がうつけだったのですか。
◇そんなことはありませんよ、しかしながらご両家とも姫とは一度も逢ったこともないし見たこともないのです。戦国時代もとうに終わりました。もう本人の意志を無視して親同士が勝手に婚礼を決める時代ではないと殿と話し合って丁重にお断りしたのです。
◎半年程前につっぱり源太から『好きな男がいないなんておかしい』と言われ、お里からも『おらだって好きな男ぐれーいるぞ、イノシシの雄じゃねーぞ人間だぞ』と言われましたが、私もいつの間にか信清殿の便りが待ち遠しくなり、今では文を手に取るだけで胸が熱く成る思いです。
◇そうですか、姫もいよいよ巣立つ時が来たようですね。殿も嬉しいような寂しいような複雑なお気持ちでは有りませんか。
☆そうよのう、姫を見ていると奥が嫁いで来た頃を思い出す。今の姫のように可憐で可愛らしい乙女であった。
◇はいはい、今は見る影もなくて申し訳ありません。
☆そのようなことは無い。目尻に2〜3本皺が増えたがそれ以外は昔のまんまじや。
◇まあ、おたわむれを。
    ハハハハ ホホホホ
●失礼いたします、奥方様に呉服問屋の壽屋が約束の品を届けに来たと申しておりますが如何いたしましょうか。
◇おう、丁度良かった、姫の身の丈も大分伸びましたのでそろそろ新しい晴れ着でもと思うて見本を届けるよう頼んでおいたのです。届けに来たのはお内儀か。
いえ、娘のお春が丁稚を連れて。
◎何っ、お春だと、爺、本当にお春が来たのか、わ〜〜〜。
     ドタドタドタ
◇おやおや、折角女らしい化粧をしたのにあの駆け方はまるでエリマキトカゲのようじゃ。
☆ハハハ、あのように明るく健やかに育ったのも爺のお蔭じゃ、礼を言うぞ。
●と、とんでもございませぬ、私は姫の回りを只ウロウロしていただけにございます。
☆姫もいよいよ信清殿との婚儀が決まりそうじゃ、爺が嫌われ役となって上手に手綱を締めてくれたお蔭で誰にでも胸を張って自慢できる娘に育ったと思うておる、このわしも親バカかの、爺。
おや、どうした爺、泣いておるのか、目出度い話じゃ顔を上げてくれ。
●嬉し泣きにございまする、ウッウッウッ。
☆久し振りに爺とゆっくり酒を飲み交わしたくなったの〜。年賀の行事も滞りなく済んでほっとしたところじゃ、まだ日も高いが奥、支度をしてくれぬか。
◇はいはい、喜んでご用意させて頂きます。
●申し訳ございませぬ奥方様。
◇なんの、うっかり爺は洒落の師匠ですから遠慮のう。
それでは早速支度をしてまいります。
●ところで殿にお願いが御座いまする。
☆何なりと申してくれ。
●ぽっちゃり姫の成長は私の唯一の生き甲斐で有りました。姫が目出度く嫁ぎましたら隠居してこの城からも出たいと思うております。どうぞお許しを。
☆ハハハ、何だそのような事か、爺には申し訳ないが隠居は当分お預けじゃ、実はのう慎一郎をあっぱれ城に戻すことにしたのじゃ。
●ご嫡男の慎一郎様が三年振りにお戻りになるのですか、これは何と嬉しい事でありましょう。
長崎奉行殿から修行も一通り終了したとの報告受けており、そろそろこの城の施政も学ばせねばなるまい。そうなるといちいち己が付いて教育する訳にもいかぬ。そこで爺が以前私に教えてくれたように今度は慎一郎に教育してほしいのじゃ。そうなると隠居どころか鼻毛を抜く暇も無く成るぞ爺、隠居などは歯が全部無くなってから考えれば良い、分かってくれるな爺。
●は、は〜〜、慎一郎様のためとあれば歯が全て無くなっても務めさせて頂きまする。
☆ハハハ、これで私も奥も安心出来るというものじゃ、そなたは父上の側近として仕え、父上亡き後は若くして城を受け継いだ私の後見役、指南役として仕え、更には慎一郎やぽっちゃり姫と3代に渡って世話に成りっぱなしじゃな、まだ暫く苦労を掛けるがよろしく頼むぞ爺。
●もったいないお言葉で、姫の何倍もやんちゃでした慎一郎様が戻るとなれば爺も腕立て腹筋で身体を鍛え直さねばなりませんな、あのやんちゃを超えたうつけ振りは桁外れで信長殿の生まれ変わりではとの噂も有ったぐらいでしたから。あのうつけ振りは奥方様の血の影響も多分に有ると思われますな殿。
ハハハハ
◇爺、何か申したか。
●あっ、これはこれは奥方様、今日は良いお天気で、干したフンドシも気持ち良さそうに日向ぼっこして喜んでおります。
◇爺、誤魔化しても無駄じゃ、しっかり聞こえましたぞ、そなたは耳が遠い分声が大きいのじゃ。
●はてさて何か気に成ることでも申し上げましたかな、近頃3歩歩くと何を申したか忘れて困っております。
◇そなたそこに座って3歩どころか1歩も歩いておらんではないか。
●これはこれは奥方様もあまり細かいことに気を使い過ぎますと髪の毛が抜けはじめ、私と同じテカテカ頭に成ってしまいまする。そうなると殿も間違えて奥方様に向かって爺と呼ぶ恐れがありますので何事もおおらかにお過ごしなさるのが肝要かと思いまする。
◇全く爺の減らず口には敵わぬわ、殿、お待たせいたしました。新春とは名ばかりで部屋内もかなり冷えますので少々お酒を温めてお持ちしました。私は女3人でピーチクパーチク晴れ着談義等いたしますゆえ失礼させていただきます。爺も今日は心ほぐして黒田節等うなってみては如何ですか。
●いえいえ、以前私の歌で厨の納豆が腐ったと苦情がよせられましたので・・・。
◇ホホホ、それでは古女房も腐らぬよう納豆を抱えて遠くに避難することにいたしましょう。
ところで、私からも爺にお礼を申し上げねばなりませぬ。親にも劣らぬ愛情をもって姫を明るく健やかに育ててくれたこと、心からお礼を申し上げます。有難うございました。
●そ、そんな、殿からも奥方様からもそのような身に余る温かいお言葉を頂きまして爺は何と幸せ者に御座いましょう。ウッウッウッ、ワ〜〜〜〜〜ッ。

     ドタドタドタドタドタ
◎お春〜〜 お春〜〜
★まあ、お姫様、このような処まで出向いてはあきまへんに。
◎お姫様ではなく姫であろう、待っておったぞお春、久し振りじゃの〜う。
★ほんにご無沙汰しまして申し訳ありません。うちも姫に合いとうてお父様より一足早く帰ってまいりました。ほんにお会いできて嬉しゅうございます。
★さあさあ早ようこちらへ、そなたに見せたいものが有るのじゃ、お春がいない間に竹馬を練習して片方の竹馬を担いで片足でトントン歩くことが出来るようになったのだ。
★まあまあ相変わらず姫はやんちゃですこと、ホホホホ。
◎何じゃその口を押えてのホホホホは、半年で急に大人に成ったみたいじゃないか。
★すんまへん、商いのお客様の多くはお偉いお武家様さかい言葉使いから笑い方まで親に注意されますよってつい・・。
◎私の前ではギャハハでもガハハでも構わん思い切り口を開けて大声で笑っておくれ、それが友じゃ。
★へい かしこまって ござんす。
◎何じゃ、今度は斜に構えて、そなたは股旅の怪しい友でも出来たか。
★おひけ〜なすって これがあっしの 旅の土産の仁義にござんす。
◎アハハハお春が変わったお春が変わったアハハハ。
★姫、姫、そんなに抱き着いたら前に進めまへん、ほんに・・・・。
◎お上品で言葉遊びも出来なかったお春が変わったアハハハ、嬉しくて笑いが止まらぬアハハハアハハハアハハハ。