白髪の王子様の会話ドラマ あっぱれ城 ⑧ 別れと出会い

別れと出会い
◎タマは日向ぼっこで気持ち良さそうじゃの〜う。私も隣に座らせてもらうぞ。お春やお里や源太が来るようになってからタマとのんびり遊ぶのも久し振りのような気がする。悪かったな。
   ニャ〜〜オ〜オ〜
◎はははは、ちょっとすねた様な鳴き声だな。すまんすまん。
   ドッ ドッ ドッ ドッ
◎タマよ折角お前と楽しく過ごそうと思っていたのに空気の読めない男が近づいて来たようじゃ。
●ハッ ハッ ハッ 姫、これは愉快じゃ ハッ ハッ ハッ ハッ。聞いて下され姫、のっそり銀次が アッ ハッ ハッ ハッ。
◎タマ、男は幾つになっても単細胞のようじゃの、うっかり爺は歯が3本しか無いのによくもまああんなに大声で笑えるものじゃ。
●ひっ、姫、笑って下され、のっそり銀次が先日の城下町散策の折我々の先になったり後になったりして歩いていた粋な姉さんのお尻をサラッと撫でたとたん手の甲を思い切りつねられたそうじゃ。驚いて姉さんの顔お覗いたらすっとびお竜だったのです。痛い痛いと今でも紫色に腫れた甲を舐めておったわ馬鹿なやつじゃ銀次は。アハハハハ、ヒヒヒヒヒ。
◎えっ、すっとびお竜も散策に付いて着ていたのか。
●はい。これまで昼と朝それにこたびの夕方と三度城下町を散策いたしましたが、そのいずれにもすっとびお竜を含め3名の忍者が姫をお守りするために町人や商人に変装して同行しておりました。
◎そうであったか。大儀であったのう、少しも気付かなかった。
●そのお竜のお尻を撫でてつねられたのが居合抜きの達人とは聞いてあきれると言うものじゃ。ハハハハ。ヒ〜ヒッヒ。
◎そのことを話すために爺は駆け足でやって来たのか。
●はい、今年一番の愉快な出来事でありますので姫に笑っていただこうと思いまして。
◎折角じゃが今し方お里が国に帰ると挨拶に来て帰ったところで私は悲しくて悲しくて笑う事などとても出来ぬ。一人にしておいてくれぬか。
●はあ、さようで、・・・さればこれにて失礼いたします。
◎なあタマ、私の大切な友がまた一人去ってしまった。お前も横でおとなしく見守っていてくれたな。あのお里はイノシシも除けて通るという気丈な娘なのに私との別れを惜しんで大粒の涙をポロポロ流してくれた。ほれ、まだここにお里の涙の跡がにじんでおる。悲しいの〜う。楽しい思い出を沢山残してくれて感謝しても感謝しきれない程じゃ。本当に良い友であった。
寝ているのかタマ、独り言では益々寂しくなってしまう。もう少し聞いておくれタマ。
     ニヤ〜〜ン
◎つっぱり源太は私が竹馬に乗れるように成ったら『これで俺の役目は終わった、じゃ〜な〜』と言って去ったきりぱたりと来なくなってしまった。男はどうしていとも簡単に人と別れることが出来るのであろう。すっとびお竜が男は皆単細胞だと言っていたがそういうことであろうかの〜。
    ニャ〜オ〜〜オ〜
◎そういえばお前も雄だったな、ハハハこれは人間のことじゃ怒るな。
ドッ ドッ ドッ ドッ
●姫っ、姫〜っ、うっかりしておりました。殿から一時もしたら大切なお客人が来るので持て成しの茶など入れるようにとの伝言でございます。それでは頼みましたぞ。
ドッ ドッ ドッ ドッ
◎まったく爺は、お尻を撫でた話よりこちらの用件のほうが余程大事ではないか。それに何であのように駆け足で行ったり来たりしておるのじゃ。足の爪を切る時でさえ右足の爪を切った後左足の爪は翌日に取っておく程暇な筈なのに。
なあタマ、お客人がくるそうじゃ。今の私は穴の開いた風船のようにしぼんでしまって人前に出たくないのじゃ。お前がお客人にお茶を出してくれぬか。声もそなたの方が女らしいし。
   ニャ〜ゴ〜ゴ〜
◎おやおや、お前も嫌か。竹馬の練習などせずにお前にお茶の出し方を教えた方が良かったかも知れんの〜。
ドッ ドッ ドッ ドッ
●姫 姫〜っ 奥方様がお呼びです。直ぐにお支度を。
ドッ ドッ ドッ ドッ
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
◎懇談中失礼いたします。お茶と菓子をお持ちしました、どうぞごゆるりとお過ごし下さいませ。
◇これはこれは姫様自ら、有難く頂戴いたします。姫様には3年前に父上と共に伺った折お会いしましたがそれはそれは美しく成長なされましたな、驚きました。
◎背は伸びましたが顔はそれなりだと友から言われたばかりでございます。
◇ハハハハたぶん口争いの時の売り言葉に買い言葉にございましょう、私の目にはとても美しく映っております。
◎長旅で目がお疲れなのでは。
◇ハハハハ確かに少々疲れておりますのでこのお茶を頂きまして疲れが取れましたらそれなりに見えるやもしれませぬ。
◎まあ意地悪なことを。
◇ハハハハ、ところで前にお会いした時姫様はお琴とか書を習っていると伺いましたが今は何かお習いですか。
◎今は竹馬と相撲です。
◇はっ?、竹馬と相撲ですか、これは驚きましたなハハハハ。
◎そんなにおかしいですか。
◇いえいえ健康的でよろしいのではないでしょうか。
☆信清殿、たじたじでござるな、今のところ姫の花嫁修業は竹馬と相撲でござる。雷電の土俵入りも得意としておりますので姫を嫁にもらってくれる力士などおりましたらご紹介いただきたいのですが。
◎父上、私は相撲取りの嫁などにはなりませぬ、相撲取りは底無しにご飯を食べると聞きます。もし食べる物がなくなったらこの私まで食べられてしまいそうです。
   ハハハハ ハハハハ
◇食べる物と言えば3年前我が国はひどい冷害に合いまして米の備蓄も底をつきこのままでは餓死者も出るのではと恐れていたところ、あっぱれ城から大量の食糧を援助していただき救われたのでございます。こたびお邪魔しましたのはその折米以外の山芋やじゃが芋更には外国から取り寄せた貴重なカボチャやキュウリ等の栽培方法をご指導頂き、ようやく収穫出来るようになりましたので改めてご報告とそのお礼を申し上げるために伺った訳でありまして本来であれば私が姫様にお茶等入れなければならない立場でありまして恐縮しております。
◎若殿が女ごにお茶など聞いたこと有りませぬ。そういえば父上、お里も同じ様な事で父親と一緒に来たと聞きましたが。
☆さようじゃ、お里の村も米だけに頼っていたため冷害の痛手は悲惨なものであった。そこで米に代わる農産物を学ぶために村を代表してお里の父親とご長男、それにその二人の炊事や洗濯などの賄いとしてお里達が訪れていたのじゃ。お里の偉いところは父親や兄と一緒に泥だらけになりながら作業を手伝っていたそうじゃ。姫はお里がいなくなって寂しい思いをすると思うが来年の秋には作付けの状況報告に来ることになっておる、その時にはお里も同行するであろう、それまで楽しみに待つがよい。
◎そうですか、お里と別れるのはとても辛いことですがつっぱり源太からそろそろ恋文の練習をしておけと言われておりますのでお里と文などやり取りして練習することにします。
◇姫様、それなら私に恋文を送って下され、喜んで拝見させていただきます。
◎それは信清殿が先によこすのが礼儀ではありませんか。
◇奥方様、また姫様に一本やられましてございます。
*信清殿、姫に恋文を送る前に相撲が強くなるよう鍛練しなければなりませんね、姫に投げ飛ばされては百年の恋もすっ飛んでしまいますので。
◎母上までそのようなことを、それでは私はまるで女力士のようではありませんか。
*うっかり爺の話では米の備蓄が減っているのは姫が育ち盛りで良く食べるからだと申しておったぞ。
◎爺が又そのような戯言を、後で逢いましたら上手投げで投げ飛ばしてやります。
*これこれ、お客人の前で何ということを、親の顔が見たいというものじゃ、ねえ殿。
☆はははは、信清殿、姫の親はここに揃っております。どうぞ親の顔をようくご覧下され。
    ハハハハ ハハハハ ハハハハ