白髪の王子様の会話ドラマ 時空神社シリーズ 谷風と雷電 ⑤木村庄之助

木村庄之助
(王子)・失礼ですが木村庄之助さんは何代目でしょうか 現在は37代目が引退して一時的に空白状態なんですが
(木村)・私は七代目の木村庄之助です
(王子)・ということは現在から丁度30代前となりますね 徳川300年の最後の将軍である慶喜が15代ですからこれも丁度倍の歴史があるということですね
(木村)・そう言われても将軍と違って血縁関係が無いからそれ程感動は受けないね
(王子)・そんなもんですかね 自分の人生を悔いなく全うしたら後はどうなろうと後世にまかせるしかありませんからね ところで最近の行司名は木村と式守しか聞きませんが昔からこの二つの名前しかなかったんですか?
(木村)・我々の頃は吉田家・五条家・吉岡家・服部家等多くの行司家があったのですが大阪相撲や京都相撲が衰退するなかで次第に行司家も少なくなり 残った行司も人気のないところから次第に店じまいとなってしまい木村家と式守家が残ったということでしょう
(王子)・またまた失礼な事を伺いますが当時から行司にも人気 不人気等有ったのですか
(雷電)・失礼な事言うなよ 7代目の木村庄之助さんは左軍配の名行司として親しまれ その裁きは大岡裁きにも劣らないとして力士顔負けの人気があったんだよ 然も二度も上覧相撲で行司を務めた大スターなんだぞ 7代目に比べたらアランドロンなんかシジミのオシッコみたいなもんさ
(王子)・恐れ入りました
(谷風)・私と小野川関との取組も何度か行司を務めて頂いたが 威風堂々として身が引き締まる思いをしたものだ
(雷電)・俺なんか土俵に上がっても庄之助さんへの声援のが多いぐらいだったよ
(木村)・ハッハッハッ 雷電さんもオーバーだけど力士がふんどし一丁で土俵に上がる横できらびやかな衣装を身に付けた行司がスクッと立てば羨望の眼差しを受けるのは仕方のないことでして 言って見れば力士の方が引き立て役となってくれているのでしょう
(王子)・そうかも知れませんね 特に雷電さんの様な薄汚れた大きなお尻の横に立てばさぞかしきらびやかに見えたでしょうね
(雷電)・何だと〜 俺の尻を見たこと有るのか お主は
(王子)・だって 不潔という言葉は雷電さんのお尻から生まれたと学校で習いましたよ
(雷電)・なんだと〜 その学校は何処に有るんだ 俺が校舎のガラスを全部粉々にしてやろうじゃないか
(谷風)・ハッハッハッ 二人の口争いを木村庄之助さんに裁いてもらいましょうか 木村さん軍配はどちらに上げますか?
(木村)・馬鹿馬鹿しくて酒のつまみにもならないので『無』としましょうか
(谷風)・ハッハッハッ さすが大岡裁き どっちが遠くまで飛ばせるか争っているシジミのオシッコみたいなもんですな ハッハッハッ
(木村)・火事と喧嘩は江戸の華と言われていますが本当に年がら年中火事と喧嘩は目にしましたね 私の二度目の上覧相撲の年にも忘れはしません 桜田火事と呼ばれた大火がありまして民家だけでなく多くの大名屋敷も焼失し多数の死者がでました そのような大火が私の記憶だけでも両手の指では納まらない程有りましたから おちおち枕を高くして寝られない状態でした
(谷風)・そうそう 江戸っ子の友人が言ってましたよ 俺達江戸っ子が宵越しの金は持たないと啖呵をきる理由の一つは火事で何時丸焼けになってしまうか分からないからだと 
(木村)・火事や喧嘩だけでなく火山の噴火や疫病・台風・冷害による飢餓等 戦がなくなっても自然の猛威と戦うのに皆必至でした インフルエンザもその一つでしたね 相撲界の最強をほしいままに35連勝中だった谷風さんが44歳で突然この病で倒れたのが残念でなりませんでした 
(谷風)・私も単なる風邪と思ってましたから寝室の隅の天井から見下ろして暫くは誰が横たわっているのか分かりませんでしたよ それがまさか自分とはね 谷風 谷風と叫ぶ声が呼び出しの声に聞こえて早く土俵に上がらなければともがいている自分を天井に浮かんでいるもう一人の自分が冷静に見下ろしているんですよ 死って不思議なものですね
(王子)・インフルエンザは現在でも猛威をふるっておりまして今年は既に300万人を超える人が病院で治療を受けているようです 谷風さんが活躍した頃の江戸の人口は100万人といわれてますからその3倍の規模なんです 未だに医者の研究も及ばぬ難敵には変わりありません それはそうと私のインタビューの持ち時間が少なくなってきました 谷風さんにお会いするつもりが雷電さんや木村庄之助さんにまでお会い出来て大変ラッキーでした そしてなにより一番嬉しかったのは天国でこのような美味しいお酒が飲めるなんて夢のような気分です 
(雷電)・おいおい お酒が一番で俺達は二番かよ
(王子)・いえいえ 雷電さんは谷風さん木村さんに次いで四番です
(雷電)・このやろ〜 土産も持ってこないくせに 偉そうにあぐらかいて飲んだり食ったりしてんじゃね〜よ 表に出ろ 一丁揉んでやろ〜じゃね〜か
(王子)・その前に雷電君 外は寒いからこの酒 熱燗にしてくれないか
(雷電)・こいつ俺より酒癖ワル〜〜
ハハハハ ハハハハ ハハハハ ハハハハ