白髪の王子様の好奇心 99 ぼっち席

ぼっち席
各大学の食堂で『ぼっち席』が流行っているそうです。
今迄の4人席や8人席のテーブルの真ん中に仕切りを設けて正面に座る人の顔が見えないようにするのです。あるいは一部のテーブルを窓際に沿っ並べ、部屋を背にして外を見ながら食事できるように椅子を配置するのです。こうすることによって一人の人も他人の目を気にせず食事ができるそうです。
『とかくメダカは群れたがる』と言われるように学生さん達はとかく勉強も遊びも食事も仲間と群れたがるものです。その群れから外れた学生さんは一人でいることに対して周りから偏見の目で見られるのをとても恐れているらしいのです。
食堂の大きなテーブルの片隅でポツンと一人で食事するのが怖くてトイレの個室でパンやおにぎりを食べる学生さんが増えているそうなのです。何よりも清潔が要求される食事を非衛生を代表するトイレの中で音をたてず息を殺して食べる姿を想像するだけで目頭が熱くなります。
トイレの神様はとても美人でトイレを掃除する娘さんにはその美を分けてあげると聞きます。しかし便器に腰掛け、パンやおにぎりをかじる娘さんに対して女神様はどうして良いやら悩んでおられることでしょう。
外食した時に気を付けて見回してみるとバーガーショップや軽食、喫茶、レストランまで昔に比べてぼっち席が増えていることに気が付きます。外食をする時は大勢で楽しくワイワイガヤガヤという時代は昭和と共に去ったようです。
これらの『ぼっち席』はネガティブなぼっちではなくポジティブなぼっちの人が利用しているようです。今の時代は女性一人でスナックやカラオケ、更には牛丼屋や一杯飲み屋の赤ちょうちんにまで顔を出します。立ち食いそばやパチンコ等と数えたら限がありません。回転寿司が流行ったのも、こうしたぼっち族にいち早く目をつけ、一人でも気軽に食べられるようカウンターのぼっち席をメインにしたのが成功の秘訣だったような気がします。旅行もお一人様歓迎のツアーが増えました。
今では一人ぼっちを怖がる時代ではありません。一人ぼっちを楽しむ時代に世の中は変化しております。そのことを学生さん達に教えてやるのが学校の務めではないでしょうか。しかし集団生活の中での孤立は寂しいものです。孤立とぼっちの違いも丁寧に説明してほしいのです。『お前一人ぼっちか寂しいな』と言われたら、『俺は何時もオープンだよ、よかったら隣に座れよ』と言えるような広いテーブルのど真ん中で堂々と一人で食事できるポジティブなぼっち族を育てる方が『ぼっち席』を増やすより大切なことと思うのですが・・・。
サラリーマンの世界ではトイレのぼっち席は恐怖であることを忘れてはなりません。
特に男性に多いのですが、個室に上司や先輩が入っているのを知らず、連れしょんしながら先輩や上司の悪口を言って左遷されたとか、来客の相方が個室にいるのを知らないで奥さんがブスだとかセンスがない等と悪口を言って高額の契約がキャンセルになったという話は山ほど聞いております。壁に耳ありと言いますがトイレの耳の方がよっぽど恐ろしいことを忘れないで下さい。
トイレがぼっち席に利用されるようになったのは洋式トイレになってからでしょう。和式トイレと言うより便所と言った方が適しているかも知れませんが、ぽっかり空いた穴から悪臭が立ち昇るところで立ってパンやおにぎりなど食べられたものじゃありません。うっかり穴を覗いたら『オエ〜〜』であります。
戦後間もない頃、バイクで成長しつつあったホンダが埼玉のオンボロ工場を買い取り、先ず初めに取り組んだのが銀座のデパートにも劣らない綺麗な水洗トイレを作る事だったそうです。
幹部がトイレより天井や壁の穴を修理するのが先決ではと進言しても聞かなかったそうです。その時の社長の言葉は、『トイレを見ればその会社がどんな会社かすぐにわかる。玄関だとか見えるところだけ綺麗にして見えないところは手を抜き汚してる会社は信用できない』との内容だったそうです。
今頃になって飲食店やコンビニ等がトイレが汚いとお客が来なくなることを知って慌ててトイレを綺麗にしているようですが流石世界のホンダに育てた創業者は先見の目がありましたね。
後日談ですがオンボロ工場で働く人達は自分達作業員の為にこんなに綺麗な水洗トイレを作ってくれたと大喜びだったそうです。そのトイレは役員やお客様の為ではなく、真っ黒になって働く作業員と共用のトイレだったのです。そして社長は暇さえあれば作業着を着て現場で働き、幹部から怒られていたそうです。『社長、そろそろ技術やから卒業して会社全体を見て下さい』と。



曙は日の出前30分位が一番綺麗で神秘的です。是非写真ではなく本物の宇宙感を味わって下さい。