白髪の王子様の好奇心 38 えもん掛け

えもん掛け
締め切っていた窓を少し開けると、すがすがしい五月の風が待ってましたとばかりに飛び込んで来ました。
カーテンが揺れ、振り向くと裸のえもん掛けもゆらゆらと揺れています。
まるで春風にたわむれる妖精達がえもん掛けにぶら下がって遊んでいるかのようです。
そこで思わず得意の川柳を一つ
『妖精に えもん掛けを取られて 肘を張る』
いかがでしょうか、意味が分かりましたでしょうか?
妖精達がえもん掛けで楽しく遊んでいるので、服を掛けないで自分がえもん掛けがわりに肘を突っ張っているという心優しい秀作と思うのですが。
えっ? 説明しないと分からない駄洒落と同じで座布団取り上げですか、ウッ ウッ ウッ
ところで、この『えもん掛け』は今の若者達の間では死語となっているようです。
『ハンガー』が主流だそうです。またしてもカタカナ英語の侵略である。これは座布団を取り上げられる事より悲しい現実である。
悔しいことに私の奥方までが最近はハンガーと呼んでいる。しかも生意気にハンガーの(ンガー)のところを鼻に掛けて得意になっている。
冗談じゃない、えもん掛けは竿に掛けるもので、鼻に掛けるものではない。
だいたいハングは吊るすという意味で洋服掛け以外に使われる方のが多いのである。身近な物でもシューズハンガー・ベルトハンガー・ネクタイナンガー・プランターハンガー等等。
明治生まれの親に育てられた私どもにとってはハンバーガーの親戚みたいなやつにえもん掛けの座が奪われるなんてご先祖様に申し訳が立たないのである。
裸のえもん掛けは、まだ揺ら揺らと揺れています。妖精だけでなくえもん掛けも加齢臭から解放されて喜んでいるかの様です。
いつも私の服を支えるために肘を突っ張ってて肩こりなどしないのだろうか。
そればかりか両腕を内側にピンと伸ばしてズボンまで掛けられるように気を使ってくれてありがとう。
長年同居していると、えもん掛けにも情を抱くのである。
たまには若い女性の下着でも掛けてほしいと思っているだろうに、いつも加齢臭漂う爺様の服で御免よ
今日は首筋あたりを優しく揉んでやるから、それで我慢しておくれ。