ちんどん屋さん
ちんどん屋さんは子供が目の前で聞ける唯一のオーケストラであった。
クラリネットの侘しい音色とチンドンの賑やかな音の調和はブラックコーヒーとケーキセットの如く
何時味わっても心が躍る絶妙のハーモニーである。
下町の商店街に新しい店が開店すると決まってチンドン屋さんが周辺の住宅地を練り歩き、後ろから
子供達が金魚のフンのように連なっていた。
そんな楽しいチンドン屋さんも見かけなく成って久しいが、今でも富山県でチンドン屋コンクールが
毎年行われ、全国から有志が集まって来るらしい。2020年に開かれるオリンピックの入場行進の
先頭は是非チンドン屋連合で花を飾って頂きたいものである。
関西では『東西屋』とか『広目屋』というらしいが『ちんどん』は今や外人さんにも知られるように
なり、代表する呼び名となっている。
地方によって様々なスタイルのチンドン屋さんが活躍したと思われるが、私の記憶にあるスタイルは
必ずと言っていいほど江戸時代の格好をして、男は和服にちょんまげ、女も和服で大きなまげを頭に
載せ、うどん粉がひび割れたような化粧をしていた。
チンドンは女性、クライネットは男、これも決まっていた。豪華版は三味線やチラシを配る人が加わ
り、お祭りのように賑やかであった。
チンドンを演奏する女性は左手で太鼓をドンドンと叩きながら右手で太鼓の上に設えた丸い灰皿の様
な鉦を手を振り上げて忙しく打ち鳴らす。
そのためか、ぶかぶかの髷はたいてい歪んでいて時には落として慌てて頭に乗せることもあり、そん
な時は子供が一番嬉しそうに笑うシーンであった。
今思えばあれは受け狙いのパホーマンスだったかも知れない。
シャッター通りとか買い物難民と言う言葉が流行語から固定化されそうな今、チンドン屋を街起こし
に利用できないものであろうか?
チンドンは子供からお爺ちゃんお婆ちゃんまでがうきうきする街のオーケストラなんです。
前向きな気持ちになれる楽しい楽団なのです。
『ば〜か、か〜ば、チンドン屋、お前の母さん、でーべーそ』これが当時子供達が喧嘩した時の捨て
ぜりふであった。チンドン屋も喧嘩材料に使われるのは心外であったろうが、でべそにされたお母さ
んもたまったもんじゃない。
『ゴツン』と頭を叩かれたのは私だけではないはずである。
若しかしたら私の母さんは本当にでべそだったのかも知れない・・・。