白髪の王子様の見聞録 ほっこりアイランド

26 台風一過

★ブー太郎 この島に活動拠点を置くと決めたからには島全体の様子を調べたいと思ってるんだが案内してくれないか

(ブ) はい 波打ち際を一周しても1時間と掛りませんので早速回ってみましょう 台風一過 風も治まりましたので王子様の好きな青い空と水平線を眺めながら観光気分で散策出来ると思いますよ

★嬉しいね しかしやたら蝉の鳴き声が大きくてブー太郎の声もかすれて消されそうだよ

(ブ) 7日間の短い命を台風に邪魔されたので必死で彼女にプロポーズしてるのでしょう

★礼儀正しく彼女に見初められるまで歌ってなんかいないでさ 手当たり次第に彼女に抱き着いちゃえばいいのに 胸を触ろうがお尻を撫でようが蝉のお巡りさんなんかいないんだろ もたもたしてたら可愛い彼女は皆プレイボーイに持ってかれちゃうぜ

(ブ) 人間より蝉の方が道徳教育が行き届いているようですね

★私が悪いんじゃないよ アダムとイブがリンゴをかじってから人間のモラルが狂っちまったんだよ ところであの蝉の合唱団は目と鼻の先にある隣の島から聞こえてくるようだけど

(ブ) 蝉はとんがり山に繁る桜や欅やモミの木が好きだからそこで集団見合いをしてるんでしょう このペッタンコ島は殆ど草原だから蝉は来ませんがそろそろ秋を告げる虫たちの合唱団が発声練習を始める頃ですよ

★都会に居ると季節の移り変わりはカレンダーやマスコミの報道で知ることが殆どだけど此処に居ると空の色とか雲の形 鳥や虫の鳴き声 果実 花の香 肌を撫でる風等五感の全てで季節を感じることが出来るから嬉しいね 心が洗われるようだよ

(ブ) どうぞ汚れた心を洗って下さい

★その言い方気に食わないね まるで私の心がヘドロのように汚れているようじゃないか

(ブ) あっ! 波打ち際にひょうたんみたいな物が転がっていますよ きっと台風の大波に運ばれてきたんでしょう

★ひょうたんにピンクの紐が結んであるから誰かの持ち物だったに違いないね ブー太郎ちょっと拾って御覧

(ブ) コルクの栓を取ってみましょう あっ! 何か手紙のような物が入ってますよ

★どれどれ 読んでみよう・・・『この手紙を見た方は是非ご連絡下さい ひょっこりひょうたん島 ドン・ガバチョ

(ブ) どこかで聞いた島だしドン・ガバチョという名前もどこかで聞いたような気がしますね

★子供の遊びのような気もするけどこれも何かの縁であろう 白髪の王国の開国記念にはこのドン・ガバチョ氏も招待しよう

(ブ) あっ! あんなところに白いテントが・・誰か荷物を移動してますよ 誰だろう

★あの後ろ姿は避難所で会った珍客の博士だよ  

博士 博士お早うございます こんなところにテントを張っていたんですか

(珍) や~ これはこれは白髪の王子殿 先日は色々とお世話になりました この島の調査も明日で終了しますので今の内お礼を言っておきます おいしいお弁当をご馳走して頂きまして有難うございました

★私はご馳走した覚えなんか無いですよ 留守中に貴方が勝手に私のお弁当を食べちゃっただけじゃないですか

(珍) ハハハハ 食べ物の恨みはまだ収まっていないようですな ところでブー太郎君と二人で朝の散歩ですか?

★環境調査と気取りたいところですがご指摘どうりなんら散歩と変わり有りません

(珍) そうですか 一周したらもう一度此処に寄ってくれませんか ちょっと早いですが新鮮なサンマを焼きながら一杯やりませんか お弁当のお返しです

★台風でテントにサンマが飛び込んで来たんですか

(珍) いやいや 携帯ロボの夢ちゃんが息子に連絡してくれてちょっと前にドローンで届いたものです 食事は一人より二人三人と多い方のが楽しいですから是非どうぞ

★それはそれは嬉しいことで それでは一周したつもりで早速一杯キュ~ッといきませんか

(ブ) ちょっと王子様 それではマナーも蝉より劣りますよ

★アダムとイブが言ったそうだ『人間なんて飲まなきゃやってられね~よ~』とね

(ブ) アダムとイブは ろくなもんじゃないですね

 

つづく