白髪の王子様の見聞録 ほっこりアイランド

⑰お岩塾の恐怖

(お岩) 幽霊とお化けの違いを勉強しましたので次は幽霊としてデビューするための実施訓練を行います 先ず人前に幽霊として登場する時は ♪ヒュ~~~ドロドロドロ♪ というバックミュージックが流れてからゆっくり姿を見せて下さい 慌ててはいけませんよ 慌てて幽霊がつまづいたら笑われますからね

★お岩先生 江戸時代はとっくに終わって今は令和の新しい時代となったのにいまだに幽霊のバックミュージックはヒュ~~ドロドロドロなんですか 時代遅れの様な気がするのですが

(お岩) それでは貴方はどんな曲が良いと思うのですか

★ベートーベンの【運命】なんかどうでしょうか 【ジャジャジャジャ~~ン】という重厚なバックミュージックに送られたら幽霊にも気合が入ると思うんですが

(お岩) 却下します 幽霊は格闘技ではありませんので気合は必要ありません それに幽霊にも愛国心はありますので外国の曲で【うらめしや~】は出来かねます

★失礼いたしました

(お岩) それでは次に移動方法ですが・・・新入りの王子とやら そこから前後左右に移動してみて下さい

★こうですか?

(お岩) そんなロボットのようにガックンガックン動いてはいけません 幽霊は湖面を滑るヨットのごとく【スーー】っと音もなく移動するのです

★そんなこと言われたも幽霊と違って私には足が有りますから音もなくスーっとなんて移動できませんよ

(お岩) 何を言ってるんですか 自分の足元をよく見て御覧なさい 貴方の足はとっくに消えて無くなっていますよ

★えっ! まさか あれっ!あああ足が消えてる あああ足が~~~ 

    バタン ツーーーー

(お岩) あら 気絶しちゃったみたい 相手を気絶させるのが幽霊の醍醐味なのに自分が気絶してどうするんですか 全く

すみませんが番町皿屋敷のお菊さん 彼の目を覚ましてくれませんか

(お菊) はいはい お安い御用で お皿を一枚づつ数えながら顔面に落としてもよろしいでしょうか?

(お岩) お任せしますわ 一枚づつ叩きつけても結構ですよ 目が覚めたら顔が腫れあがって幽霊らしくなりますから

(お菊) それではスタートします  一枚~~・・・ ボッコン

★アイタタタタ アイタタタ アレッ? あんた誰 アイアムア・ボーイ

(お菊) あらま~ たった一枚で目が覚めちゃうなんて物足りないわ~

(お岩) 王子とやら 授業中に居眠りはいけませんよ

★は はい 居眠りした覚えはありませんが頭がパニクッて目が回って申し訳ありませんでした 自分で自分を褒めてあげたいと思います

(お岩) 何を言ってるのかよく分かりませんが授業を進めましょう

それでは幽霊の基本動作である『うらめしや~』のポーズについて勉強いたしましょう

★あれこれ規則で雁字搦めにしないで自由なポーズでいいと思うんですが駄目ですかねお岩先生

(お岩) 自由には遠慮や思いやりがありません 我儘な自由程平和や規律を乱すものは無いのです 若し幽霊の一人が阿波踊りのように両手を頭の上でひらひらさせながら『ヤットヤット ヤットサー』なんて踊りながら人前に現れても誰も恐がりませんよ そんな自由を許したら私達は統率がとれなくなり霊界から追放されてしまいます

★成程 まるで権力者のように自由を振りかざす者は幽霊よりも怖い存在なのかも知れませんね それでは『うらめしや~』の基本ポーズを教えて下さい

(お岩) では両腕を胸のところまで持ち上げてから柳がしだれるように前に垂らして下さい

★こうですか?

(お岩) 駄目駄目 そんなに腕を前に伸ばしたら『前へ~ならい』に成ってしまいます 脇を締めて肘は脇から離れないようにして 手首はだらりと下げますが指先がおへそより下に行かないよう注意して下さい

★うらめしやのポーズは簡単なようで結構難しいもんですね 指先がおへその下に行ってはいけないなんて初めて知りました

(お岩) だらりと垂らした指先が股間まで届き そこで指をもぞもぞ動かしたら色々と誤解される恐れがありますから

★成程 李下に冠を正さずという教訓と同じですね お化けも大変だな~ バカじゃ出来ませんよね~お岩さん

(お岩) お化けじゃありません幽霊です さっきお化けと幽霊の違いを勉強したばかりじゃありませんか

★失礼しました ついうっかりしまして 自分で自分を叱りたいと思います ところでうらめしやのポーズはこんなもんでよろしいでしょうか

(お岩) ポーズはまあまあですがそんなドングリ目をしてはいけません 幽霊が相手よりもビックリしたような目をしてたら足元を見られますよ

★お言葉ですが幽霊には足が無いので足元を見られる心配はないと思うのですが 

(お岩) 貴方は私を馬鹿にする気ですか このお岩を馬鹿にしてこのお岩塾から無事に出られるとでも思ってるんですか

★いえいえ冗談ですよ 先生は美人で感じが良いから冗談の一つも言いたくなるんです 同じお岩さんでも四谷怪談のお岩さんだったら片目がザクロのように紫色に腫れあがりそれはそれは恐ろしい顔をしてましたので冗談なんかとても言えませんよ

(お岩) そのお岩さんってこんな顔でしたか・・ヒュ~ドロドロドロ 『うらめしや~~ 』

★ヒエ~~~ッ おおお・いいい・わわわ・だ~~~ 

ガックン・・ツーーー

(お岩) あら また気絶したのかしら 子供より単純なこと やれやれアホ面してよだれをたらしてズボンの又のところもしっとり濡らして情けない王子様ですこと ホッホッホッ・・あらいけない幽霊は笑ってはいけないんだったわ

ちょっと 牡丹灯篭のお露さん 今度はあなたに彼の目を覚ましてもらっていいかしら

(お露) はいはい了解です カラ~ン コロ~ンと素敵な音を響かせる愛用の下駄でこの頭をぶん殴ってよろしいでしょうか

(お岩) どうぞどうぞ ゴルフボール位のコブが出来ても構いませんから腰を入れてガツ~ンと一発やってくださいましな

(お露) それではお言葉に甘えまして梅雨空の雲が吹き飛ぶような勢いで一発勝負とさせていただきます

そりゃ~~っ  ガツン~~~~~~

・・・・・・・・・・・・

(お岩) どうかしたのお露さん黙り込んで

(お露) このお爺ちゃん 気絶を通り越して完全にバタンキューしちゃったみたい 頭の上にドーナツのような円い輪が浮かんできたわ どうしよう

(お岩) 私 知~らない

(お露) そ そんな お岩さんが腰を入れて思い切りぶん殴っていいと言ったじゃない ねえ番町皿屋敷のお菊さんも聞いてたでしょ

(お菊) わたしも知~らない

(お露) な 何でよ  私達親友でしょ 私一人に責任を押し付けるなんてずるいわ あ~あ霊界でも女の友情ははかないものだったのね・・・

いいわ それなら私だって今日の出来事は何も知らなかったことにするわ

泡吹いて転がってるお爺ちゃんのことなんか知~~~~らない

 

つづく・・・・・かも

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