白髪の王子様の会話ドラマ  なんで?〜シリーズ ①転勤辞令

①転勤辞令
Ж 『松岡雄平君、ソマリア支店勤務を命ずる』
○えっ? なんで俺が? ソマリアってあのアフリカのソマリアだよな
●松岡 ご愁傷様 生きて帰って来ることを祈ってるよ
○なんで俺なんだよ ソマリアは黒川が行くことに決まってたんじゃなかったっけ
●渋谷専務が人事に口を出したに違いないな 黒川は渋谷専務のコネで入社したやつだからな
○きったね〜 上場会社がやる事かよ
●若しかしたら宴会でお前が歌った『てるてる坊主』が原因かも知れないな 渋谷専務のあだ名はてるてる坊主だからな
○そんなことで転勤先が決まってたまるかってんだ 送別会には『糞糞坊主 糞坊主』と歌ってやろうか
●とにかくもう辞令が出たんだからジタバタしてもしょうがないだろ男らしく首をくくるんだな
○それを言うなら腹をくくるだろ 縁起でもないことを言うなよ それにしてもソマリアって海賊が多い国じゃなかったっけ?
●そうさ 日本のタンカーや商船もちょくちょく被害に遭ってるんだ その情報を探るのもお前の重要な任務と成るんじゃないかな
○待てよ 俺は商社マンであってジェームズーボンドじゃないぜ
●お前は伊賀の生まれだろ 日本の忍者の底力を見せてやれよ
○馬鹿言うな 俺は埼玉県の生まれだ 
●何だ ダ埼玉かよ つまらん処に生まれたなお前も
○何とでも言え お前も親戚のコネで入ったから気楽でいいよな せいぜい転勤するにしてもスープの冷めない距離だろうからな
●そうだな スープは冷めないだろうな なにせ砂漠地帯だからな
○えっ? 砂漠って鳥取砂丘のことか?
●お前こそ馬鹿言うなよ イラクだよイラク
○冗談だろ だってまだ正式に発表されてないじゃないか
●親戚の伯父さんのところに事前に知らせがあったそうだ
○それで親戚の伯父さんは反対しなかったのかね
●そんなこと出来る訳ないだろ そこが専務のコネと課長のコネとの違いさ ハハハハ
○お前は同期で断トツの能天気だけどイラクは内戦やらイスラム国との戦いでヘルメットを三つ四つ重ねても危ないところじゃないか
●そうだな 日本製の鉄鍋でも持ってってお尻もカバーするか
○冗談じゃないぜ お互い行ったら3年は帰れないんだぜ その間彼女とも会えないじゃないか
遠距離恋愛なんてロマンチックじゃないか 合いたくなったら中間地点のマレーシアかスマトラ島の椰子の木の下で落ち合えばいいさ そこで水平線に沈む太陽に向かって二人で『バカヤロ〜』と叫べば青春の良い思い出になると思うよ
○くだらん冗談言うなよ そう言う田中には彼女はいないのかよ
●彼女は沢山いるさ だけどスマトラ島で『バカヤロ〜』と二人で夕陽に向かって叫ぶ程の親密な間柄の彼女はいないな それよりもソマリアイラクの方がよっぽど近いぜ 時々逢って一杯飲もうじゃないか
○あのさ 渋谷や新宿で一杯飲むような気軽さで言うなよ 逢ったとしてもイスラムの国では飲酒は禁止だぜ
●ハハハ 外人が利用するホテル内ではいくらでも飲めるさ その時までにイラクの石油王の娘をナンパしてさ腹一杯石油も飲ませてやるよ
イラクの原宿でナンパするつもりか お前は何時でも能天気でいいな 羨ましいよ
●松岡よ入社して3年もすれば誰もが転勤するのは分かっていたことじゃないか こういう事は深刻に考えれば考える程不安になるだけさ 成るように成るって お前も海賊の娘をナンパしてさ海賊の王にでも成れば3年と言わず5年でも10年でもソマリアに居たくなるって
○それにしても我が社の支店ってヤバイ場所が多いと思わないか
●昔から商社マンは死の商人と言われてさ 商売のためならどんな危険な場所へでも飛び込んで行って稼いできたんだ むしろ平和な国より内戦等で混乱した国の方が衣食住の全てが不足しているしライフラインもずたずただから儲けるチャンスがそこらじゅうに転がっているという訳だ 
○そうか それで我々を死の商人に育てるために危険な処に転勤させるって訳だ それにしても育つ前に俺達が死んじまったら惨めの極みだぜ
●大丈夫だよ 転勤先に各人の死に装束が会社からプレゼントされるそうだ
○何だそれ
●だから 死んだ時に着る白い服とか白足袋それにわらじとか頭に付ける紐のついた三角頭巾等を無料でプレゼントしてくれるそうだ 親切な会社だよな〜
○なにが親切だよ そんなのプレゼントするくらいならもっと安全な処に転勤させろってんだ
●そうそう 死に装束を着る時は必ず左前だから気を付けろよ
○おいおい 死の商人は死に装束まで自分で着替えるのかよ 厳しい〜〜

           おわり