白髪の王子様の会話ドラマ ④もしも可哀そうなお化けに遭ったら

④もしも可哀そうなお化けに遭ったら
▲うらめしや〜〜〜
◎おっと〜 突然柳の陰から声を掛けるなんてお化け屋敷の客引きかね
▲いいえ 本物のお化けです
◎自分から『本物のお化けです』なんて出て来るお化けが居るかね
▲お化けは嘘はつきません その証拠に ほら足がないでしょ 私を見て怖くありませんか
◎ぜんぜん
▲あなたはお酒を飲んでますね だから驚きを感じる感性までが酔っぱらって麻痺してるんでしょう
◎飲んじゃ悪いかい? 花金のほろ酔いはサラリーマンにとっては至福の一時なんだよ あんただって今の俺には親友に見えるぜ どうだい肩を組んでもう一軒はしごしようじゃないか
▲いいえ お化けはお酒を飲みませんので遠慮させていただきます
◎なんだよ お化けってつまんね〜な〜 あんたはこの世に何か未練が有るから成仏しないでお化け稼業をやってるんだろ 恨みやねたみや未練なんてお酒をのんでパ〜ッと発散させればそうやって両手首をだらりと下げて『うらめしや〜〜』なんてやらなくて済むと思うんだけどな〜
▲そんな単純なもんじゃないんです こんがらがった釣り糸の様にお化けにはお化けの複雑でやっかいな事情が有るのです
◎そうかいそうかい それはそれとして なんで俺に声を掛けたんだね
▲あなたの足を30分程お借りしたいのです
◎足ってこの足のことかい?
▲はい とても健脚に見えたものですから
◎そりゃ〜学生時代はずーっとサッカー部で走り回ってたから足には自信があるけどさ お化けは足が無くてもスーッと宙を浮いて移動できるから足なんか必要ないんじゃないのかい
▲私は幼い頃から病弱で学校の校庭や野原を駆け回る友達を羨ましく眺めて育ちました いつか必ず大地を蹴って走り回る姿を親に見せたいとの願いも敵わず30を前にしてこの世を去ってしまいました
このままでは死んでも死にきれないのです たった一度でいいから大地を思い切り蹴って野原を掛ける感激を体感してからでないと三途の川を渡りたくないのです お願いですからあなたの健脚でその夢を実現させてください
◎そうかい そういう事情なら協力するのもやぶさかじゃないけどまさか俺の両足をノコギリでギーコギーコと切断するんじゃないだろうね
▲そんなことはしません 私がスーッとあなたの足を撫でるだけであなたの足は消えて私の身体に移動します 痛みは全くありません ただ30分間だけは動けませんのでそれだけは我慢して頂きたいのです
◎そうかい 間違いなく30分で元に戻してくれるんだろうね
▲お化けは嘘はつきません それでは足をさすります
◎お〜う本当だ 足が消えてゆく おいおいそんなに根元から両足を持って行ったら股間の息子だけが残されて可哀そうじゃないか 息子も持ってってくれよ
▲いいえ それは私の方が立派ですから遠慮させて頂きますハハハハ
◎おい こらっ お化けのくせに上から目線で笑うんじゃないよ 使い慣れない足でつまづいて転ぶなよ お化けがつまづいて転んだら笑い者だからな
▲ヤッホ〜〜 ヤッホ〜〜 ハハハハ ハハハハ

おわり