白髪の王子様の会話ドラマ 時空神社シリーズ ブルースリー ④アクション革命

④アクション革命
ブルースリーさんは生後3ヶ月でサンフランシスコの映画に赤ちゃん役で出演したって本当ですか
☆よく知ってるね その時から手足をバタバタさせてカンフーの素晴らしさを披露してやったよ
◎生後3ヶ月なら誰だって手足をバタバタさせますよ
☆その出演料で親は俺の離乳食を買ったんじゃないかな 俺の親孝行はそれで終わりさ
◎生後3ヶ月でオムツを引き摺りながらもそこで自立したんですね さすがブルースリーさんですね
だけど旅先で生まれたんですから間もなくご両親と共に香港に戻られたと思うんですが それで映画出演もプッツリ切れてしまったんですか
☆両親が役者だったからその縁で香港でも結構映画やテレビに子役として出演したよ
◎なんだ 親の七光りじゃないですか それって自立じゃなくてスネかじりですよ 子役も大根役者だったような気がしますが
☆バカ言うな 俺は18歳で再度アメリカに行くまでに20本もの映画やテレビに出演したんだ 大根だったらそんなに長く続く訳ないだろう 名子役として立派に自立していたんだ
◎それなら何故アメリカに旅立ってしまったんですかね 成長するにしたがって可愛らしさがなくなり何処にでも転がってるつまらん顔になってしまって何処からもオファーが無くなってしまったからじゃないのですか?
☆そろそろ日本の皆様に負けないよう紹興酒でおもてなしをしようと思ってたけど今の言葉を聞いて止める事にしたよ
◎チョッ チョッ チョット ブルースリー閣下 本日はお日柄もよく紹興酒のおいしい季節となりましたことをお喜び申し上げます
☆何を言ってるんだね君は 少しもお喜びの気分じゃないよ
◎話は変わりますが アメリカ行きは自分の意志で決めたんですか
☆君も諦めが早いね紹興酒の話にはもう少し乗って来ると思ったんだが
紹興酒ぐらいで心が乱されては白髪の王子の名がすたります どうぞアメリカ行きの経緯を教えて下さい
☆そうかね それじゃこの紹興酒は仕舞うよ
◎いえいえ 仕舞わずに横に置いてお話下さい
☆そうかね 色々と注文がうるさいけど話すとしようか 簡単に言えば俺が喧嘩ばかりして高校を退学処分となり家でゴロゴロしてたら父親にアメリカに行けと半ば強制的に追い出されたという訳さ アメリカで生まれたから18歳に成ればアメリカの市民権が得られることも理由の一つだったけどね
◎ライオンが我が子を崖から落とすように これからは自力で生き抜いていくようにとの親の厳しい愛情だったんでしょうね
☆その時持たされたお金はたったの100ドルだけだぜ 愛情というよりも薄情だと思ったね 仕方ないから父親の知人宅に泊めてもらって様々なバイトをしながら学校に通ったよ それでも足りないからカンフーの道場を開いて生活費の足しにしたんだ 
ストリートファイターの経験が役に立つ時が来ましたね 
☆そうだけど武士の商法の例え道り どんなに腕が立ってもお客を集める方法に疎かったから少しも暮らしは楽にならなかったんだ
ブルースリーさんは学生結婚ですからそんなポチポチに毛が生えたボチボチ暮らしでは亭主の沽券に関わるじゃないですか
☆そんな時友人から様々な地方で行われている格闘技大会でデモンストレーションを行い知名度を上げれば生徒も増えるんじゃないかとの助言を受け色々な大会に出場しては皆が驚くような技を選んで披露したんだ
◎成程 それはグッドアイディアでしたね 広告費も掛からないですし知名度は上がるし それで生徒さんは増えましたか
☆生徒が増える前にテレビ出演のオファーが舞い込んできたんだ
◎それはラッキーですね でも何で?
☆俺のデモテープを見たディレクターが新番組の脇役にぴったりだと判断したんだ 俺にデモを勧めてくれた友人のお蔭だね この時ほど持つべきものは友だと感謝感激したことはなかったね
◎いよいよ大スターへの道が開けましたね
☆ところがアメリカは香港以上に人種差別の酷い国だったんだ 自由の国だと思っていた自分が迂闊だったよ 出演したテレビ番組は俺の活躍で予想を上回る高視聴率を稼いだにも関わらずその後の出演依頼の役柄は全て脇役かもっと下の役で主役の話は一つもこなかったんだ それをアメリカに長く住んでいる知人に話したところ 当然のように『いくら活躍しても主役の話なんか来ないさ』と諭されてしまったんだ
◎どういうことですか?
☆我々アジヤ人は陰でイエローモンキーと呼ばれていたんだ 日本人だって同じだぜ 黒人が差別を受けていたのは知っていたけどそれでも彼等は黒い肌のアメリカ人さ ところが我々は人間では無くイエローモンキーと軽蔑されていたのさ そのイエローモンキーが主役となってその指示で白人が働かされる映画なんて彼らの誇りが許す訳ないだろうというのが彼の意見だったのさ 残念ながら多くの知人友人に聞いても答えは同じようなもんだった 俺はそれを知って一旦アメリカを去ることにしたんだ
◎一旦というと 懲りずにまたハリウッドに挑戦するつもりだったんですか?
☆そうさ 当時世界に知られるスターに成るにはどうしてもハリウッド映画で有名になることが絶対条件だったのさ 悔しいけどね それには香港で大活躍してそれを土産に再度挑戦することが早道だと確信して家族揃って本国の土を踏んだという訳なんだ
◎その気迫を注ぎ込んだ帰国後第一作目の作品が『ドラゴン危機一発』ですね
☆そう しかし撮影現場の殆んどは猛暑のタイで然も予算が少ないため約一ヶ月で仕上げるというハードスケジュールだったために帰国した時には体重が10キロ程落ちてフラフラだったね
◎暑さが敵じゃさすがのカンフーの達人の蹴りやパンチも効き目がなかった訳ですね 然し苦労した甲斐があってその作品は香港史上空前のヒットとなり植民地支配していたイギリス本国でも大きな話題となったそうじゃないですか 
☆予算が無いので出演者はギャラの安い俳優の寄せ集めで撮影機材はボロボロ 脚本はメモ程度で格闘シーン等は殆んど俺のアドリブというアメリカだったら大学の映画クラブ程度の環境で僅か一ヶ月で完成させた作品だったから香港を揺るがす程のヒット作品となった事に一番驚いたのは映画製作に携わった者達だったと思うよ
◎第二作目は『ドラゴン怒りの鉄拳』でしたね
☆あゝ 気を良くして監督から直ぐに第二作目のオファーが入り歓喜に浸る間もなく第二作目の撮影に取りかかったんだ
◎しかしその作品は日本人というより日本そのものを敵とする内容で正直言って不愉快な思いをしましたね それに何ですかあの芸者風のストリッパーは 短足で然もお尻はぶよぶよの皺だらけじゃないですか せめてストリッパーぐらいはピチピチギャルにしてほしかったですね
☆そう文句を言うなよ 香港人は植民地支配を受けてる影響もあり悪い外国人を徹底的にやっつける作品を熱望しているんだ だからといって香港でイギリス人や欧米人を悪とする作品を作ることはタブーなんだ 分かるだろ そこで目を付けられたのが日本という訳なんだ 日本は一時的にしろ香港を占領したことがあるからね でもあの作品の舞台は香港ではなく日露戦争後間もない上海なんだ この二作目から『アチョ〜〜ッ』の怪鳥音とムンチャクが登場して一作目を上回るヒット作品となったんだ
◎そのヒットは日本人としてはあまり喜べないヒットですから話を第三作目の『ドラゴンへの道』に移しましょう 今度はイタリアが舞台ですがコロッセオでの格闘シーンには感動しましたね 大勢の敵をバタバタ倒す目まぐるしいシーンより一対一の生死を賭けた緊迫感を多彩な技の応酬で盛り上げる格闘シーンこそブルースリーさんが単なる俳優ではなく本当のカンフーの達人であることを証明した作品だと思います
☆嬉しいこと言ってくれるね 対戦相手は全米空手チャンピオンのチャック・ノリスだったから思い切った技を互いに出し合うことが出来た成果だと思うよ
◎この作品も大ヒットなり とうとうブルースリーさんが乗り込む前にハリウッドからのオファーが入ったんですね
☆嬉しかったね その時は第四作目の『死亡遊戯』の製作中だったんだけどメインの格闘シーンを撮り終えたところで一旦中断してハリウッドの作品を優先することにしたんだ
◎それがあの有名な『燃えよゴラゴン』ですね 念願だったハリウッド映画の主演を勝ち取り アクション映画といえばガンアクションとカーアクションしか知らなかったハリウッド映画界に革命をもたらしたブルースリーさんですが その映画が公開される僅か一か月前に他界してしまうんですね 悔しかったでしょう
☆さっきも言った通り死んでしまったら悔しいも何もあったもんじゃないさ 却って撮影途中ではなく完成するまで俺を生かしてくれたことに感謝してるよ 
◎そうですか さすが大学で哲学を学んだだけあって言う事が違いますね しかし脱兎のごとく駆け抜けた32年間の人生でしたから今の平穏な暮らしはほっとするどころか暇を持て余していませんか 鼻毛が全部抜かれてすっきりしているように見えますが
☆ハハハ 今俺は新しい映画作りに夢中になっていてね 鼻毛を抜く暇なんかないさ
◎えっ 天国にも映画館が有るんですか
☆有るとも 空がスクリーンだからオーロラをバックにスケールの大きい特大画面で俺は主役を演じるつもりさ
◎それはうらやましいですね
☆俺の敵役としてもう一人探しているところだから どうだね君も出演してみないか
◎いえいえ 私は空手も柔道もボクシングも出来ませんからブルースリーさんの敵役なんか出来ませんよ
☆何か一つ位得意なものはないかね
◎そろばんは三級の資格を持ってますが
☆そろばんね・・・それじゃ君はそのそろばんを持って俺のムンチャクと闘うっていうのはどうかな
◎それは そろばん勘定に合わないから止めます
☆ハッハッハッ うまい 座布団三枚とこの紹興酒を御馳走しよう
◎やったぜ ベイビー

つづく