白髪の王子様の会話ドラマ 時空神社シリーズ 岡本太郎 ④ハチャメチャ家族

④ハチャメチャ家族
◎太郎さんは小学校を二度三度追放される程の悪餓鬼だった様ですが 世間ではそんな手の付けられないやんちゃな子を見ると『親の顔が見たい』と陰口を叩くのが相場ですがそんな世間の冷たい風を感じることは無かったですか
☆大人達は俺をバカだのチョンだのと井戸端会議のツマミにして楽しんでいたかも知れんが 俺は俺で大人達をウドの大木でノータリンのマヌケのコンコンチキだと思ってたからそんな馬鹿大人の噂や罵詈雑言なんか屁とも思わなかったさ
◎それが小学生の言う言葉ですかね 可愛くないな〜〜 今聞いても蹴飛ばしたくなりますね 私も急に親の顔が見たくなりましたがどんなご両親だったんですか
☆ハチャメチャよ 親父がハチャで御袋がメチャだったな そんな親に比べれば俺なんか優等生だったもんよ
◎凄い家族ですね そのハチャ親父はどんな仕事をしてたんですか 若しかしてヤクザ屋さんですか
☆君にまでハチャ親父と呼び捨てにしてほしくないね
◎失礼しました お父様のお仕事は駅や公園にたむろするプータローさんだったんですか
☆言葉使いは丁寧だがグサッと来るな 俺の親父は夏目漱石の紹介で朝日新聞社に入り風評マンガを書いていたんだ
◎えっ! それじゃエリートサラリーマンじゃないですか どこがハチャなんですか
☆女癖が悪かったんだな 結婚してからも 俺が生まれてからもその癖は治らず給料もろくに入れなくなったらしい とうとう頭に来た御袋が学生さんを家に連れ込んで同棲生活を始めたんだ そして親父はそれを暗黙の了解で見守っていたんだ
どうだいハチャメチャだろ
◎信じがたいですね それは小説の世界でしょうに それが本当ならハッチャラ メッチャラ ピーヒョロロで私だったら踊り出しますよ
☆御袋は元々は歌人与謝野晶子の『新詩社』の同人となっていたが俺が小学校に上がる頃から川端康成の指導を受けて小説を書くようになっていたんだ 学生との同棲はそんな小説の肥やしにでもするつもりだったのかも知れんな
◎ちょっと待って下さいよ さっきから聴いてると夏目漱石だの与謝野晶子だの川端康成等とポンポンと日本を代表する文化人更には芸術家としても著名な人の名前が出てきますが太郎さんはどちらに転んでも芸術家の血をたっぷりと引き継いだお坊ちゃまとして育ったんじゃないですか
☆悪餓鬼からおぼっちゃまに昇格したようだが現実は親父がお金を持ってこないもんだから電気を止められたり水道まで止められて近所から貰い水をしたこともあるんだ 朝顔につるべ取られて貰い水なんて風流な貰い水じゃないぜ 当然食う物なんかろくにないから俺は外に出て人様の庭から道に飛び出してる柿をもぎって食べたりイチジクや銀杏等を食べたりしてたよ 栄養失調でいつも青っぱなを二本ぶら下げ両腕はその青っぱなでテカテカなおぼっちゃまが何処に居るよ
もぎたての新鮮な外食なんて贅沢じゃありませんか やっぱりお坊ちゃまですよ そのお坊ちゃまが何時の間にか親をしのぐ芸術家に成ったんですから蛙の子は蛙と言うか白鳥の子はやっぱり白鳥だったんですよ ところで太郎さんは結婚しないで養女を迎えたそうですが世間では養女では無く奥さんだとのもっぱらな噂でしたが本当のところはどうだったんですか
☆役所にもきちんと手続きしたから戸籍上も立派な養女さ
◎そうですか まさかその養女に手を出したりはしなかったでしょうね
☆養女にする前から手を出してたから問題ないだろ
◎チョチョチョチョット それは問題有りですよ それこそハチャメチャじゃないですか さっき白鳥の子は白鳥と言いましたがどぶ鼠の子はどぶ鼠に降格します
☆俺は常識に縛られるのが大嫌いなんだ 芸術だって同じだ 常識に縛られた芸術なんてそんなもん芸術じゃない 好きな者同士が一緒に暮らすのに他人が多数決で良し悪しを決めるなんてナンセンスもいいところじゃないか 人生を共に暮らす素敵なパートナーとして俺は敏子を選び 敏子も喜んで残りの人生を俺と暮らすことを選んでくれた それだけでいいじゃないか どぶ鼠と言われようがゴキブリと言われようが俺は構わないが敏子のことはそんな目で見ないでくれ あいつは俺の独身主義を理解し 純真な気持ちで従ってくれただけなんだから
◎敏子さんは立派な方です 岡本太郎の芸術家としての名を高めたのも敏子さんの献身的な努力によるものと誰もが認めておりますから安心して下さい 
太陽の塔が完成した時のマスコミの反応はひどいもんだった どの評論家も『万博のテーマを無視した愚行』だとか『日本の芸術家の恥さらしだ』とか『万博を遊園地レベルに引き下げた』等々四面楚歌の窮地に追いやられた時はさすがに俺もガックリしたね 万博が終われば取り壊されると分かっていながらの渾身の力作と自負していたからね
◎それは悔しいですね
☆敏子は敏感だから俺が悶々として耐え忍んでいる様子を見ながら解決策を必死で考えていたんだな ある日突然『マスコミの言うことなんか気にしない方がいいわよ 評論家なんて自分じゃ何も出来ないくせに人の作品をけなして自分の価値を高めようとしてるんだから こうなったらもっとテレビやラジオに出演して芸術の楽しさを分かり易くそして熱く語ってみなさいよ そして小学生のプチ芸術家にも優しく楽しく接してごらんなさいよ 一般庶民の人達があなたと芸術に興味を示しあなたを応援するようになったら評論家なんか直ぐに尾っぽを振ってあなたに媚びてくるから』と断言したんだ 敏子に褒められ励まされながらテレビやラジオに出演し小学生と芸術の楽しさを語り合っているうちにだんだん敏子の言った通りに成ってきたんだ あいつは芸術家の俺を誉めて励ましてケツを叩く芸術的な調教師だったな
◎じゃじゃ馬馴らしですね
☆そのじゃじゃ馬の対象は男ではなく女だ シェイクスピアが400年以上も前に書き上げた作品でマイ・フェア・レディという映画でヘプバーンが演じていたじゃじゃ馬女もそれを真似たものだ
◎そうですか じゃじゃ馬が駄目ならハチャメチャ馬はどうですかね 
☆・・・・・
◎お呼びでない・・・ハチャメチャが駄目ならムチャクチャはどうでしょうか
☆・・・・・
◎これもお呼びでない・・・それではメチャクチャはどうでしょうか・・・それともシッチャカメッチャカなんかお似合いと思いますが・・・
じゃかまし〜〜〜

つづく