白髪の王子様の会話ドラマ あっぱれ城 ④ はったり先生

はったり先生
○ぽっちゃり姫、お久しゆうございます薬師のはったり源内にございます。
◎源内先生お待ちしておりました。
○元気な姫の前には邪気も恐れをなして寄り付かないと思うておりましたが如何なされましたかな。
◎月に見とれて夜風に吹かれたせいか、ちと寒気がしておなかも痛むものですから大事に至らぬようお呼びしたのです。
○成程成程、何事も早期の対処が肝心でありますからな。
●はったり先生、姫は月に見とれて冷えたのではなく月夜の晩にフンドシ姿で友と相撲を取っていて冷えたのでございます。先生からも叱ってやって下さいませ。
○姫がフンドシですか?
◎爺がまた余計なことを、乙女心を傷付けるようなことを申すでない。
●月夜の晩にどこの乙女がフンドシ締めて相撲を取りますか、姫のは乙女心ではなくやんちゃ心であります。いま少し女らしゅうなって下され。
○爺だってこの前フンドシで顔をぐるぐる巻きにして透明人間だと自慢してたではないか。
●あれは姫を笑わせようとした爺のとっておきの一芸であります。
○まあまあ、お二人共冷静に、うっかり爺殿には申し訳ござらぬが姫の様態を調べますゆえこの場を退いていただけませんか。
●承知いたした。それでは次の間に控えておりますゆえ何か用がありましたら声を掛けて下され。ところで先生、この際姫のお尻に月見団子のような大きな灸を燃やして下され、姫の悲鳴を楽しみにしておりますので。
○はいはい私は日本一の医師ですからお任せ下さい。
●それでは失礼いたす。
○やれやれ今回の件ではうっかり爺も随分とお怒りのようで。
◎爺は大袈裟なのです。それに考えも古くて女は部屋の中でなよなよめそめそしているのが可愛いと思っているから余計反発したくなるのです。
○それにしてもフンドシとは驚きましたな。それでは早速診察いたしましょう。姫、お尻を出して下さい。
◎先生っ
○おっと具合が悪いのはお尻ではなくおなかでしたな、失礼失礼。え〜と顔色を見る限り熱もなさそうだし私を睨んだ目も力強いし流行り風邪ではなさそうですな、食当たりでもないし、ちょっとおなかを押させてもらいますよ、ここを押すと痛みはどうですか?
◎ちょっと痛いような。
○ここは?
◎ちょっと
○ふ〜〜ん、強い痛みはないようですがどんな感じなのですか?
◎おなかがパンパンに張ってるようで時々ツ〜ンと痛むのです。
○はは〜これはおなかにガスが溜まって悪さをしているのでしょう。
◎ガスってなんですか?
○紅毛人語でガスとは気体のことで屁にも使われます。体が冷えたり緊張したりするとガスが腸に溜まって腹痛を起こすのです。これを治すには溜まったガスを外に出すしかありません。その方法を教えましょう、先ずは温かい白湯等を飲んでおなかを温めながら腹部を動かすことから始めます。
ちょっと失礼、『うっかり爺殿聞こえますか、聞こえましたら熱い湯を急いでお持ち下され。』
●せ、先生、湯と申されましたか?、それでは姫の腹痛は陣痛で間もなくお子が生まれるということですか、これは一大事じゃ。
○いえいえ慌てないで下さい。タライにお湯ではなく湯呑に熱い白湯を入れてお持ちいただきたいのですが。
●先生驚かさないでくださいよ、もう少しで私は腹を切るところでした。それでは早速白湯をお持ちしますのでしばしお待ちを。
◎まったく爺は頭はのんびりしているのに耳はそそっかしいんだから。
○ハハハ、ところで姫、お通じのほうは毎日ありますか?
◎ここのところ、ちょっと。
○そうですか、便秘もガスを悪玉にする原因となります。軽く考えてはなりませんぞ、江戸城の大奥からお宿下がりする女子の多くは便秘が原因なのです。極度の緊張から便秘となり恥ずかしくてガスも我慢していると腸が中毒をおこして寝込んでしまい、そのまま死に至ることもあるのです。飛ぶ鳥でさえ便秘に成ったら空を飛べなくなり直ぐに死んでしまうのです。腸を緩める薬を調合して後程弟子に届けさせますので朝夕一服ずつお飲みください。今は腸に溜まったガスを出しておなかの張りと痛みを取ることに専念いたしましょう。
●先生、お待たせいたしました白湯をこちらに。
○ありがとうございます。お使いだてして申し訳ありません、もう一つお願いごとがあるのですが。
●何なりと。
○これから気合で治療しますので近くに人の気配がしても気合のさまたげとなりますので暫時庭など散策していただけないでしょうか。
●気合で治るなら『痛いの痛いの飛んで行け〜』の方が効き目があると思いますが。
○はいはい、私は日本一の医師ですからお任せを。
●しからば中秋の風流など味わうといたそう。
○御足労かけまする。
やれやれ爺も遠ざけましたから姫も恥ずかしがらずに私の指示に従ってガスを出すことに集中して下さい。
◎やっぱり恥ずかしいわ。
○恥ずかしがっていたら腸が破裂しますぞ、オナラが出ると同時に私が気合の大声でその音を打消しますので安心してぶっぱなして下され。それでは温かい白湯を半分飲みましょう、そうしましたら腹を撫でて外からも温めます。そうそう、そして残りの白湯を全部飲んでまた腹を撫でながら立ったり座ったりして下さい。今度は腹を左右によじりながらゆっくり立ったり座ったりするとそろそろ出る雰囲気なってきます。そこで私が背と腹を挟むようにして押しますからそれに合わせて出して下さい。さ〜行きますよ〜。それ〜っ『ドンガラガッチャン・ガランゴロン・スッテンコロリン・タ〜ッ・ト〜ッ』
もう一度行きますよ、それ〜っ『バッカンボッコン・ブースカプースカ・ドッテンバッタン・ギエ〜』
◎先生、出ました出ました。
○分かりますよ、匂ってきましたから。さあ最後の仕上げです、行きますよ〜それっ『バカバカボコボコツルツル頭の爺よ飛んで行け〜〜っ』
◎アハハハ、アハハハ先生おかしくて笑ったらお尻が緩んで沢山出ました。
○よーしよーしこれで張れも痛みも改善されたことでしょう。
◎ありがとうございました。すっかり良くなりました。女はこんなに苦労しているのに男はいいですね爺なんか平気で私の前でブッブッとやるんですから。昨日も私に説教をしておきながら立つときにブッとオナラをしたので『失礼であろう』とたしなめたら『膝が弱いので屁の力をかりました』と平然としているのですから。
○ハハハ、うっかり爺の機転も大したもんですな、昔秀吉が織田信長の御前でうかつにも大きな屁をしてしまい『申し訳ありません、この尻はまだ百姓にて礼儀を知りませぬどうかお許しを』と言っておとがめなく許されたそうじゃ。秀吉は百姓上がりなのでその機転な言葉に信長も笑って許されたのでしょう。女ごも人前でオナラが出てしまったら爺のような機転の言葉でさらりと流してしまえば良いのです、『出もの腫れものところかまわず』は男だけのものではありません。姫も早く便秘を治しませんと熊手を尻の穴から突っ込んで溜まった糞を掻き出さなければなりませんぞ。
◎そんな恥ずかしいことを。
○ガスは食べたり飲んだりする時に飲み込んだ空気ですから本来は無臭なのです。それが便秘をしてますと悪臭に変わってしまうのです。そうなるとこっそりオナラをしても臭いでばれてしまいます。何事も早めの対処が肝心なのです。
●先生、風流もこのへんで切り上げてよろしいでしょうか?
○これはこれはうっかり爺殿ごそくろうかけました。姫もすっかり良くなられましたのでご安心くださいませ。
●それは良かった、ありがとうございました。
○なんのなんの私は日本一の医師でありますからな。
●ところで原因は何だったのでありましょう。
〇お目付け役のうっかり爺殿だけには申し上げなくてはなりませんな。実はおなかに溜まったガスが悪さをしていたのであります。
●ガスとは何のことで。
○屁のことです。姫はやんちゃなところもありますがやはり女ごであります。うっかり爺のように気楽にプースカプースカ出す訳にはいきませぬ。気候の変化も影響していると思われますが腹痛は便秘も原因の一つであります。便秘薬は後程調合して届けますので朝夕一服ずつ飲ませて下さい。
●先生は屁や糞のことまでそんなに詳しいとは知りませんでしたな。
○なにせ私の祖父は『放屁論』という本まで出版したぐらいですから。
●えっ、それでは源内先生は平賀源内殿のお孫さんでいらっしゃいますか、それは恐れいりましてございます。
○大したことありません、私は変人奇人のとこだけを受け継ぎましてハハハハ。それではこれにて失礼つかまつります。
◎先生ありがとうございました。
●お〜い、のっそり銀二、屁の先生がお帰りじゃ、門までお送りせい。
○うっかり爺殿、屁の先生と呼ぶのはちょっと・・・
●これはうっかりしました。お〜い、のっそり銀二、日本一の屁と糞の先生のお帰りじゃ門まで丁重にお送りいたせ。
○・・・くそ〜〜。