あだ名名人
○田鍋 お前をこれからは『鍋』と呼ぶけどいいだろ
◎何で『田』を抜かすんだよ
○だって同じクラスに、字は違うけどタナベが二人もいると困るんだよ
お前を呼んでるのにもう一人の田辺が振り返るし、お前らだって困ってるんだろ？
◎確かにそうだけどさ『鍋』はちょっとな〜
○それじゃ『鍋さん』はどうだ？
◎なんか、オッサン臭くてやだな、あいつ（田辺）は何て呼ぶんだよ
○『健』だよ、あいつは田辺健二だから健二の『健』を取って、そう呼ぶことにしたんだ
お前も田鍋宏明だから宏明の宏を取って『宏』と呼ぼうか？・・・・
塾帰りだろうか、珍しく公園のベンチで中学生らしき二人がだべっている。
二人が手に持っているのはアイスクリームである。
くそ寒いのにアイスクリームとは流石にエネルギー旺盛な学生達である。
彼等と同じような経験をしてきた私にとっては学生時代を思い出させてくれた会話に
思わず微笑んでいた。
私が高校１年の時、同じクラスに石本、岸本、西本の全然違う名前だけど発音がそっくりな
３人がいて、そのうちの一人を呼ぶと３人が返事したりして困ったことがあった。
我々の時代はそんな時に活躍したのが『あだ名』であった。
不思議と、どのクラスにもあだ名名人がいて、あいつはおしゃべりだから『ダベラー』に
しようだとか、あいつは『 だって〜』が口癖だから『だって〜』と呼ぼうとか名人が付けた
あだ名でいつの間にかクラスの皆が呼ぶようになっていたものである。
ところで、お隣の国では苗字が一文字の人が殆んどで日本とは比較にならない程同性の人が
多い筈である。
入学式で『張さん』と呼んだら５〜６人が手を上げそうだが、そんな時先生や友達どうしでは
どんな呼び方をしているのだろうか？
よけいなお世話だが隣の芝生が気に成るところである。
明るい笑い声を残して学生達が去っていった。
どうやら円満に解決したようである。
彼等のお蔭で高校時代の『バカボン』とか『ゴリ』とか『ぽか〜ん』といったあだ名の懐かしい
顔を思い出したが、どうしても本名が思い出せない。
昨晩のおかずも思い出せないのに無理な抵抗はやめることにした。
今度会ったらあだ名で呼べばいいじゃないか、はっ はっ はっ
私も笑いながらベンチを後にした。
