白髪の王子様の好奇心 18 当たり前に感謝

当たり前に感謝
医院の待合室で久し振りにピカソの人物画を見た。
こんな顔に生まれないで良かったと今は無き両親に感謝した。
目、鼻、口、耳が喧嘩したのか『互いにあっち向いてホイ』なのである。
何故だか『目糞 鼻糞を笑う』という格言を思い出した。
目と鼻が喧嘩したのはきっとそのせいに違いない。
目糞に笑われた鼻糞はさぞかし悔しかったに違いない。
誰が見たって目糞より俺の方が糞らしい糞である。目糞なんか吹けば飛ぶよな
蚤の糞みたいなもんじゃないか。
個人的には鼻糞の気持ちは良く分かる。
そこで神様がこんな格言をつくって鼻糞をなだめた。
『鼻たれ よだれを笑う』
友がよだれを垂らしているのを見て笑った本人の鼻からは二本の鼻水が垂れていた。
という意味だが、これを聞いた口が怒ったのである。
よだれより鼻水の方が汚いじゃないか、よだれは綺麗な透明なのに鼻水は時々黄色い
糞色をしてるじゃないか。笑われるのはお前の方だ。
それを聞いて慌てた神様は口のために次のような格言を加えた。
『よだれ 耳糞を笑う』
これを聞いた耳が怒った。
という訳でそれぞれ『あっち向いてホイ』の配置に成ったのであろうというのが私の
感想である。
やれやれ、言う方も疲れたが聞く方も疲れたに違いない。
考えてみれば我々の目、鼻、口、耳の配置は実に良く出来ている。
若し耳が目の上に有ったら顔が細長くなって馬との見分けがつかなくなるし、鼻の
両脇に耳が寄って来たら、顔の中心がラッシュアワーの如く混雑して、鼻がかゆい
のに耳をかいたり、歯を磨くつもりで鼻を磨いたりと混乱する恐れがある。
我々が当たり前と思っている顔や平穏な暮らしに対してピカソは破壊の恐ろしさを
教えているのかも知れない。
ピカソの人物画を見て自分にどこか似ていると思った人は、私の通っている医院を
紹介したい。看護師さんも今私が見ているピカソの婦人にそっくりだから。