白髪の王子様の好奇心 17 青空に 柿色の柿 鮮やかに

青空に 柿色の柿 鮮やかに
葉が落ちて鮮やかな柿色の柿が目に飛び込んで来る季節である。
こんな時思わず口ずさむ句は『柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺』である。
私は一茶が詠んだものかと思っていたら正岡子規であった。子規さん
御免なさい。
好物の柿を丸ごと手に持って『がぶっ』とかぶり付き空を見上げた時に
『ゴ〜〜ン』と鐘の音が響いてきたのであろう。子供でもその時の情景
が目に浮かぶ楽しい句である。
子供にとっての柿は特別に身近な果物であった。柿は家の中で食べる上品な
ものではなく外で食べる野生的な果物である。何故なら柿の木のある家
を見つけると一旦はさりげなく通り過ぎ、庭に人の気配がないと分かると
色々な方法で盗み取るのである。簡単に取れる場所があっても目もくれず
がんこ親父の居る家をわざと狙うのである。
一つもぎ取る度に枝が大きく揺れる。その度耳を澄ませ、ガキ大将の合図
で次の柿を狙う。たいてい2〜3個位で親父の怒鳴り声が聞こえてくる。
始めから木戸の位置を調べて逃げる方向も決めてあるので捕まることは
めったにない。収穫した柿が参加人数に足りなければ次のゲットポイント
に出陣である。こうしてスリル満点でゲットした柿はすこぶる美味であった。
どうゆう訳か誰もが食べる前に服とか袖に2〜3度こすってからかじった
ものである。鼻水も袖で拭いていたので微妙な塩味が付いて一層おいしく
なったのかも知れない。
柿といえばもう一つ思い出す言葉がある。
『柿が赤くなると 医者が青くなる』である。栄養満点の柿を食べると風邪
をひいたり具合悪くなる人が少なくなり、お医者さんの家計が苦しくなると
いうことらしい。
昔は栄養素を調べる方法もないのに適格な情報を楽しい言葉で伝えている
のに感心する。粗食で暮らす庶民は栄養価の高い食べ物を口にすると直ぐに
効果効用を体感出来たにちがいない。
柿1個あたりに含まれるビタニンCの含有量はミカンの3〜4個分に相当し
カロテンも多く、細菌に対する抵抗力を強めるそうである。正に格言通り
町医者の収入は減るにちがいない。
干し柿の植物繊維は全食品中のトップで発癌抑制作用が判明し、癌予防が
期待されているとのこと。
これをあの頑固親父が知っていたら日本刀を振り回して追っかけて来たであろう。
柿の効用の医学的発見が遅れたことによって多くの子供が健康に育ったこと
は皮肉である。