古里への旅
○東京に嫁いでからもう６年になるか 久し振りだな〜 だけど駅前は相変わらず殺風景だこと
◎おい明子 こっちだ こっち
○あら お兄ちゃんお久し振り
◎お前は 鉄砲玉じゃあるまいし６年間も帰ってこないで『あら お兄ちゃんお久し振り』
なんて軽く言うなよ
○可愛い妹と久し振りに逢ったんだから文句言わないでよ ほら昴 誠おじさんが迎えに来て
くれたよ ご挨拶しなさい
●おじさん こんにちわ
◎おう 昴君こんにちわ お母さんに似ないで礼儀正しいね
○ちょっと子供の前で変なこと言わないでよ
◎さあ俺のベンツがお待ちかねだ乗った乗った
○あら まだこの車に乗ってるの 坂道になったら降りて後ろから押してくれなんて言わ
ないでしょうね
◎お前は相変わらず口が悪いな 俺は何度もこのベンツでお前のアッシ−君を務めたんだぞ
○はいはい その節はお世話になりました
◎その節だけじゃないだろう 愛車のベンツもへそを曲げるぞ
○はいはい今日も明日もお世話になります よろしくお願いします
◎よしよし 東京に行って少しはまともな言葉が言えるようになったな
○私のことはそれくらいにして 皆さん変わりなくお元気よね
◎ああ 元気だよ お前には秘密にしていることもあるけどな
○あら 何よ気に成るな〜・・・あっ ちょっとあの畦道に立ってるの京子ちゃんのお母さん
じゃない？ ちょっと止めてお兄ちゃん
◎おう 小柳さんの奥さんだよ
○小柳のおばちゃ〜ん こんにちわ〜 明子です 京子ちゃんと友達の田鍋明子で〜す
◇えっ？ 田鍋明子さんって 京子とよく遊んでた幼馴染の明子ちゃんかね
○はいそうです
◇へ〜 べっぴんさんになっちまって 庭の隅っこでお尻をペロンと出してオシッコしてた
あの明子ちゃんかね〜
○ちょっとおばさん 変なこと思い出さないでよそれは２０年以上も前の話でしょ私は６年
振りに帰ってきたんだから
◇そうかいそうかい 明日京子が孫連れて遊びに来るから今野菜を摘んでるところだよ
○よかった京子ちゃんに逢えるなんて おばさん明日私も子供連れてお邪魔しますからその
野菜私にも御馳走してね
◇はっ はっ はっ 相変わらずだねアキちゃんは 京子も喜ぶよ いらっしゃい
○いいな 古里って 人はやさしいし山や田畑も暖かく迎えてくれるし
●お母さん ふるさとってなあに
○そうね 心の洗濯をしてくれるところかな
◎おい明子 昴君にそんなこと言ったって分からんだろ ちゃんと子供でも分かるように
説明しろよ
○そ〜ね〜 古里って うるさいお兄ちゃんが居るところかな
◎おい明子 坂道だ お前だけ降りて後ろから押せ
○あんれま〜 やっかいなベンツだこと
