②巨人病
◎ジャイアント馬場さんは何時頃からそんなに大きくなったんですか まさか生まれた時からでは？
☆馬鹿言うな ２メートルを超えた赤ちゃんがオギャ〜〜と生まれたらお産婆さんが気絶するわ これでも小学校に入学した当時は一番小さい児童のグループだったんだよ それが３年生の頃から急に伸び始めて５年生の時にはもう１７５センチを超えて学校で一番のノッポになってしまった
◎ご両親は身体に合う服を揃えるだけでも大変苦労したでしょうね
☆そうだな 一番伸び盛りのときは朝長ズボンを履いて学校に出掛けたのに家に帰ったら半ズボンに成っていたよ
◎ほ〜う 竹の子も真っ青ですね それにしては胴長の様な気がしましたが
☆子供サイズのズボンを履いているお主に言われたくないわ そんなことよりもっと大変だったのは身長が伸びるに伴って食欲も旺盛となり中高生の頃にはご飯を洗面器で御代わりしたもんだ
◎あれま〜〜 まるでウドの大木と馬鹿の大食いがコラボしたようですね
☆若ぶって意味不明な事言うな 無礼なこと申せば切腹を申しつけるぞ
◎古いな〜〜馬場さん 言葉の一つ一つにカビやらコケが生えているじゃないですか 天国のテレビは古臭い時代劇ばかり放映してるんですか？
☆少なくとも不倫やオッパイ丸出しの番組はやってないよ
◎そうですか 天国も意外と味気ないですね ところで中学から野球を始めたんですよね
☆あゝ 直ぐにエースで４番よ たいてい背が高いと運動神経が鈍いやつが多いが俺はそうじゃなかった だからプロ野球選手になるまでは自分が巨人病とは気付かなかったし そんな病気が有るのも知らなかったよ
◎それでは高校時代も野球で活躍出来たんですね
☆残念ながら甲子園には行けなかったが予選大会に巨人のスカウトが見に来て即スカウトされて高校２年で中退してあこがれの巨人に入団したんだ
◎それにしては馬場さんは巨人時代のことについては殆んど口にされなかったですね そうとう嫌な経験をしたのですか？
☆首になったんだぜ 入団する時家族や親戚そして友人知人先生等大勢の祝福を受けて東京に向かう列車に乗った俺を見送ってくれた人たちに顔向けが出来ないじゃないか 俺よりも故郷で暮らす両親はどれだけ肩身の狭い思いをしたかを考えると今でも震えが治まらなくなる思いだよ 今の巨人が１３連敗したのはその時の祟りさ
◎随分のんびりした祟りですね 確か故郷は新潟の三条市でしたね 金物の職人が多い街で広い新潟県の中でも三条男は度胸が有りきっぷも良いことから『三条男に加茂女』と呼ばれて新潟を代表する男の街と聞いていますから余計に一旗揚げなければ故郷には帰れなかったのですね
☆捨てる神あれば拾う神ありとは良く言ったものだよ プロレスを紹介してくれた知人そしてそんな俺を一人前のプロレスラーに育ててくれた力道山には天国に来てからでも感謝を忘れないで胸の中で手を合せているよ
◎先程巨人病とおっしゃいましたがスポーツ界では背が高いと何かと有利だと思うんですが背が高くて困ったことは有るんですか？
☆高校の頃俺は野球部を辞めて美術部に入ったことがあるんだ
◎ちょっと待って下さいよ ジャイアント馬場が美術部ですか？ それは力道山がホークダンス部に入るとかカラスがピンクのパンツを履くようなもんでしょ
☆お主は時々意味不明なことを言うね 俺は自慢じゃないがプロレスラーにならなかったら画家を目指したかも知れない程絵が得意だったんだぜ
◎百歩譲ったところで何で好きな野球を辞めてまで美術部に入ったんですかね
☆足に合うスパイクが無かったからだよ 練習試合なら運動靴でも構わないが公式な試合に出るには帽子からスパイクまで決められた服装でないと試合に出られなかったのさ
◎アベベ選手は合う靴が無くてハダシでマラソンに出場しましたが馬場さんもハダシで出場出来れば良かったのに
☆試合に出られないんじゃ野球部に居たって仕方ないから止めたんだが学校の先生らが特注のスパイクを手に入れてくれたお蔭でまた復帰することができたのさ 大きいのはいいが大きすぎると何かと問題が生じるものよ 後に成ってみればその大き過ぎる足がプロレスでは役に立ったけどさ
◎子供の頃はどうでした
☆隠れんぼや缶蹴りをしても直ぐに見つかって鬼になってしまうんだ 友達は狭い隙間やちょっとした物陰に隠れることができるが俺は何処に隠れようとしても頭かお尻がはみ出して直ぐに見つかってしまう
◎なまじ隠れようとするから駄目なんですよ 両手を広げて立っていれば皆電信柱と間違えて素通りしたと思いますがね
☆俺の技は１６文キックだけじゃないよ 脳天唐竹割りという技をお主にプレゼントしてやろうか
◎いえいえ結構です プレゼントなら美味しいお酒を頂きたいものです ところで馬場さんは巨人病の自覚は無かったと言う程運動神経も抜群だし体力も有ったようですが何か異変を感じることは無かったんですか
☆それが巨人に入団してから色々な障害が出てきたんだ 先ず頭痛が頻繁に起こったと思ったら今度は目が急に見えなくなったりして当時成功率１％と言われた手術を受けたんだ 奇跡的に回復して二軍では何度か最優秀投手にも選ばれたんだが監督はどうも私が嫌いだったようで中々私を使ってくれなかった たぶん王や長嶋のように甲子園や６大学で活躍した花のあるはつらつとした巨人カラーを監督はイメージしていたんだと思うんだ その点気味が悪い程ガタイの大きい俺なんかフランケンシュタインに見えたんだろうね 当時の巨人は実力よりもイメージを大切にするぐらいのゆとりがあったのさ
◎そう言えば王や長嶋が入団するのと馬場さんが引退するのとはほぼ同時期だったんですね
☆あゝ 一度でいいから王と長嶋を左右に眺めながらマウンドに立ちたかったよ『たら れば』は未練でしかないけどね
◎巨人で巨人が活躍するという駄洒落好きな監督だったらその夢も実現したかも知れませんね
☆お主が監督だったらどうするね 俺を一軍で使ってくれたかね
◎実はジャイアント馬場さんをベンチに入れると他の選手が嫌がったと聞いたことがあるんです 馬場さんはベンチにすわっても頭が天井にぶつかりそうになるため時々頭を横に傾けると横に座ってる５〜６人の選手は馬場さんの頭が邪魔してグランドが見えなく成ってしまうらしいのです
☆こいつ〜〜
◎あれ〜〜〜っ ウギャ〜〜〜 ワ・ワ・ワ・技じゃなくてお酒をくだされ〜〜〜
続く
