白髪の王子様の会話ドラマ あっぱれ城 ① ぽっちゃり姫とうっかり爺

ぽっちゃり姫とうっかり爺
●ぽっちゃり姫もすっかり大きくなられて殿もさぞかし驚かれることでしょう。 
◎奥で着付けてもらったが窮屈でならぬ、糸でぐるぐる巻きにされた手毬のようじゃ。
●一年振りに殿にお会いするのですから少しはおめかしいたしませんと。
◎後姿が見えぬがちゃんとなっておるのかの〜爺。
●後姿はそれはそれは美しゅうございまする。
◎もう一度申してみよ。
●後姿は美しゅうございまする。
◎まだ気が付かぬか爺は、美しいのは後姿だけかと聞いておるのじゃ。
●こ、これは大変失礼を申し上げました。前後左右、縦横斜めから見ても美しゅうございまする。
◎もう良いわ、取って付けたような言葉で私が喜ぶとでも思っているのか爺は。
●も、申し訳ありません、この場で腹を切ってお詫び申し上げます。
◎爺は三日に一度は腹を切る腹を切ると騒いでおるが、そんなに腹を切りたいのならそこに庭師の鋸があるからそれで切ってみよ。
●ノコギリでギーコギーコは辛うございまする。
◎どうせ死ぬのに辛いもへったくりもなかろうに、それでは介錯で鋸を使えばよいではないか。
●首をギーコギーコも辛うございまする。
◎それなら安易に腹を切る等と申すな、それより爺に相談したいことがあるのじゃ、聞いてくれぬか。
●何なりと、姫に救われた命ですから。
◎そろそろ私も『ぽっちゃり姫』と呼ばれるのが恥ずかしくなってきたのじゃ、別の良い名に替えることはできないものかの。
●それは、ちと難しい相談でございまするな、あっぱれ城内では殿がお付けになられた名で呼ぶのが長年のしきたりでございまして、これは城内に忍び込んだ密偵を欺く手段とも聞いております。私めの『うっかり爺』も殿が名付けたものにございます。
◎そなたの『うっかり爺』はぴったりだから何の不満もないであろうが、この様な大人びた姿をして『ぽっちゃり姫』ではおかしと思わぬか。
●『ぽっちゃり姫』は可愛らしくてとても良い名と思うておりますが、どうしても姫が気に入らぬようでしたら姫の気に入った名を殿に進言いたしまして了解を得なければなりませぬ。
◎それが良い、年の功で爺なら良い名も浮かぶであろう、頼んだぞ。
●承知致しました、一瞬ひらめいた良い名がありますので早速殿に進言いたす書状をこしらえますのでこれにて失礼仕る。
◎ちょっと待て爺、どんな名か私に知らせるのが先であろう。
●これはうっかりしておりました、『ぽっちゃり姫』よりちょっと大人っぽい『でっぷり姫』がよろしいかと、殿が城にお戻り次第書状を渡してご了解を得ますゆえ楽しみにお待ち下され。
◎爺、ちょとこちらへ。
●いえ、こちらでも聞こえますので。
◎よいからもそっと近くへ来なさい。
●いえいえ嫌な予感がしますので、ここでお聴きします。
◎お前が来ぬなら私が行ってやる〜〜〜。
●な、何と・・
◎でっぷり姫とは何じゃ、でっぷり姫とは〜〜。
●そ、そんな馬乗りになってはせっかくの衣裳が乱れてしまいます、お気に召さぬようでしたら『ふっくら姫』はいかがでしょうか。
◎そんなお餅が膨らんだような名で私が喜ぶとでも思っているのか、この腐れ頭が〜〜〜。
◇これこれ姫、何をしておるのじゃ。
◎あっ、母上さま。
◇枯れ木にまたがって乗馬のお稽古か?
●奥方様、枯れ木ではありませぬ、爺でございます。
◇おや、うっかり爺ではないか、久し振りじゃの〜う。
●いえいえ毎日お会いしております。
◇そうであったかの〜う、そなた近頃影が薄いのではないのか。
●とんでもありませぬ、年寄りはあまり目立たぬよう部屋の隅をコソコソと歩いておりますゆえ。
◇さようか、ゴキブリみたいじゃの、ところで二人揃って何の用じゃ。
●???あの〜〜奥方様がこちらにお見えになったと私めは認識しておりますが。
◎母上、私に何か用があったのではありませぬか?。
◇おう、そうであった、うっかり爺の頭を見たら目がくらんで昨日の夕げも何であったか忘れてしもうた。そうそう、琉球国の珍しい菓子を頂いたので姫と一緒に食べようかと思っての。
◎わ〜〜嬉しい、すぐに参ります母上。
●奥方様、私めにも琉球国の珍しい菓子のおこぼれなど・・・。
◇おう、うっかり爺ではないか久し振りじゃの〜う。
●その言葉は先程聞いております。
◇実は菓子に添え書きが付いておって、影の薄い殿方には体に良くないそうじゃ、残念じゃの〜う。
●そんな〜〜〜。
◎甘いものは年寄りの歯に悪いそうじゃ、爺の分も私が食べてあげるから安心しなさい。
●この親ありてこの子ありとは良く言ったものじゃ。
◎なにか申したか爺。
●いえいえ独り言にございます。
◎それから暫くはぽっちゃり姫でよいから相談は無かったことにしておくれ。
●はいはい、初めから本気にしておりませんので。
◎何か申したか爺。
●いえいえひとり言にございますゆえ気になさらないで下され。
◎そなたはひとり言が多いぞ、もそもそとモグラの内緒話のような話し方するでない。
●姫は怒っても笑っても可愛らしくて美しうございますな〜。
◎それは菓子の催促に聞こえるが。
●これはこれは手厳しいお言葉で、奥方様にそっくりになられました、ハッハッハッ。
◇これ爺、何か申したか。
●いえいえ奥方様独り言でございますゆえお気にめさらず。
◇そなたはひとり言が多いぞ、もそもそと芋虫の内緒話のような話し方するでない。
●はいはい、そっくりでございまする、ハハハハ、そっくりでございまする、ハハハハ。