白髪の王子様の好奇心 79 コーヒー事件の波紋

コーヒー事件の波紋
この事件は1992年のアメリカで起こりました。
マクドナルドで買ったコーヒーを車の中で飲もうとしたおばあちゃんが誤って膝の上にこぼしてしまったのです。そのためヤケドをした被害者とマクドナルドとの間で損害賠償をめぐっての裁判となったのでした。裁判の結果はマクドナルドに対して約3億円の支払いを命じる判決が下されたのです。
このニュースは瞬く間に世界中に広まり、大手飲食業界はパニックとなったのです。
何故ならこの事故は本人の過失によって本人の車の中で起きた、言わば自己責任とも取れる状況下で起きた事故だったからです。
判決の内容を見て更に驚いたことは、ヤケドに対する賠償額が16万ドルだったのに対して懲罰的賠償額が何と270万ドルと目が飛び出る程の高額だったからです。
その懲罰とは、簡単に言えば『このような事故が起きることは事前に想像できたにもかかわらず、紙コップに注意書きするとか販売する時に口頭等で注意を促すとかの事故を未然に防ぐ対策を何もしていなかった』ということであります。
この事件後、日本を含め世界中の主な飲食店のコーヒーの設定温度が下がったと言われています。
マクドナルドの設定温度は85度でしたから、80度を切る店もあったと思われます。これでは真冬には直ぐに冷めてしまい体を温めることもできません。私のように熱いコーヒーが好きな者にとっては悲しい波紋でした。
波紋はコーヒーがぬるくなるぐらいでは済みませんでした。コーヒーをこぼして3億円貰えるなら俺も私もと二匹目、三匹目のどじょうを狙う悪質と思われる訴えが現在も続いているのです。
企業も黙ってはいません。マスコミに大金を投じて市民よりの裁判官を徹底的に非難し、企業よりの裁判官を送り込むことに全力を注ぎ対抗してきたのです。結果的には行き過ぎた判決がかえって市民よりの裁判官を追い出すことになってしまったと嘆いている人も多いようです。
日本では現在コーヒーの設定温度はどうなっているのだろうか?、そんな疑問が好奇心をくすぐり、ついに体感ツアー決行を決意したのであります。我が家の温度計は30センチもあるのでそれをコーヒーカップに入れる訳にはいかないので我が家のポットが90度の設定となっていることからそれを基準とする口内感覚で判断することにしました。
先ず一軒目は川越駅近くのロッテリアです。店員に設定温度を聞くと『85度です』と明快な返事が返ってきました。この温度は事件当時のマクドナルドと同じです。そっと口に含むと期待外れで直ぐに呑み込める程度のものでした。85度にちょっと疑問を感じました。
次は、最近コンビニのコーヒーが美味しいと評判なのでセブンイレブンで試飲してみました。
店員さんは設定温度は知りませんでしたが私ごのみの熱いコーヒーで我が家のポットと同じ90度はあると口の粘膜も答えていました。値段も100円と缶コーヒーよりも安くご満悦であります。
東武東上線川越市駅前のファミリーマートは缶コーヒーしか置いて無かったのでパスです。
次に寄ったのは自宅近くのサンクスです。ここにはファースト・リラックスと書かれたメーカーのコーヒー機が置いて有り店員に教わりながら恐る恐る紙カニコップに注ぎました。
ここも設定温度は確認出来ませんでしたが、ここでも粘膜は90度はあると頷いておりました。嬉しいことです。
さて、調査を開始して5日目に国道16号線脇のマクドナルドに足を運びました。店員に設定温度を尋ねると『90度です』と驚く返事が返ってきたのです。もう昔のことを忘れてしまったのだろうか?疑いながらそっと口に含んでみるとやっぱりちっとも熱くないのです。ロッテリアと殆んど同じで私の口内温度計では82〜3度と判定いたしました。きっと店員の勘違いでしょう。しかしそこで嬉しい発見をして私は思わずニンマリしてしまいました。紙カップに次の文字が印刷されていたのです。
◎中身は大変熱くなっておりますのでご注意下さい
◎紙コップは扱い方によって漏れることがありますので
 落としたり、むりな力を加えたりしないでください
◎車内などに長時間、中身を入れたままで放置しないでください

この四行の注意書きにこそ22年前に受けた懲罰の教訓が生かされているのです。
更に紙コップのキャップにも大きな字で『あついので やけどに ちゅういください』と子供でも読める平かなで印字されています。それだけではありません。そのキャップの一部分をめくるとキャップを閉めたままでも飲めるようにできているのです。ここまでやればお見事と言えるでしょう。
他店でも紙コップにこのような注意書きは有りますが虫眼鏡で見ないと分からないような小さな字で、殆んどの人は気付くことはないと思います。
最後に行き付けの喫茶店でマスターに『コーヒーをおいしく飲むための適切な温度は何度ですか?』と聞いたところ、『それは90度ですね』と答えてくれました。それは夏冬変わらないけれど冬はカップを温めてから注ぐようにしているとのこと、その思いやりの分おいしく感じるのでしょう。
この店でコーヒーを膝の上にこぼしても訴えるのは止めよう思った次第です。
約一週間程掛かった私の調査はこれで終了です。それを祝して帰りのコンビニでワンカップ酒を買ってカップの回りを見てみると、こんな文字が印刷されておりました。
◎未成年者の飲酒は法律で禁止されています。電子レンジでお燗をする場合はアルミの蓋を取って一分以内に。と書かれています。更にここでも新発見です。ワンカップOZEKIのラベルの裏、つまりお酒の入っている内側にもこんなことが書かれていました。『このワンカップは50年前の東京オリンピックの開会式に合わせて新発売されたもので10月10日をワンカップの日と制定しました。』私にとって大切な記念日が一つ増えましたが、これは余計な報告でしたかな。