白髪の王子様の好奇心 70 憎めない失言

憎めない失言
失言には顔が青くなるような重大な失言から、思わず笑ってしまうような憎めない失言まで色々有りますが、当然このコーナーでは政治家等のきな臭い失言では無くリスの目のようなあどけない失言を取り上げたいと思います。
待望の赤ちゃんを抱いて笑顔で挨拶に来た近所の若夫婦に向かって『かわいい奥さんですね』と言ってしまい、相手のご主人と自分の妻から白い目で見られたのは私の友人です。
普段から感じの良い奥さんだと思っていたのが仇となったようです。
『だって、赤ちゃんはこうのりが間違って猿の惑星から連れて来たような顔してたもんだからさ』
これが彼の言い訳でした。
誰でも一度や二度はこのような失言の経験をお持ちじゃないでしょうか。
たった一言の『は』と『も』を間違えただけで大変な失言になることがあります。
例えば母娘で歩いている二人連れにばったり出会って『あら 娘さんもお綺麗だこと』と言うべきところを『あら 娘さんはお綺麗だこと』と言ってしまたら近所付き合いにヒビが入ってしまいます。
私の妻がまだ30代の頃、子供会の集まりで『あら あなた手は綺麗ね』と言われたことを今も根に持っているから怖いものです。
パートの奥さんから聞いた話ですが、ご主人の風邪が移ったのか子供が急に高熱を出したので会社に休みの連絡を入れたそうです。ところが選りに選って日頃から口うるさい課長が電話口に出たもので慌ててしまい『すみません 7歳の主人が熱を出しまして病院に連れて行きますので休ませて下さい』と言ってしまったそうです。
それも課長から『ずいぶんお若いご主人ですね』と言われるまでは気付かなかったそうです。
受話器を置いた後、自分まで熱が出たとケラケラ笑っていました。
だいぶ前、私の伯父が友人の結婚式で『逃げた女房にゃ未練はないが〜』と歌ってひんしゅくを買ったそうですが、どうもこれは計画的なギャグの臭いがします。
夏目漱石が教壇に立って話をしている時、袴に手を差し込んで聞いている生徒を見つけ『君っ 手を出しなさい』と叱ったところ、隣に座っていた生徒が『彼は片腕が無いのです』と刺すような言葉が返ってきました。腕が無い為ひらひらする袖を袴に差し込んでいたのです。
教室がしらけたように静かになったそうです。
その時漱石は『私も無い知恵を出して話しているのだから君も無い腕を出して聞いてくれたまえ』と言って教室の空気を和ませたという話は有名ですが、私達凡人にはとてもそんな逆転タイムリーな弁解など出来ません。返って恥の上塗りをして眠れない夜を過ごすことになります。
私の失言は『今日のカレーは旨いね』と珍しく妻の料理を誉めたら、その日のカレーはお湯で温めるだけのレトルトカレーだったのです。あれから30年近くたっているのに今だに長い尾を引きずっております。私は私で『たまには奥様の料理を誉めなくちゃ駄目ですよ』と言った、あの日のパーソナリティーを今も根に持っております。