白髪の王子様の好奇心 69 大人のおとぎ話 鬼嫁 

大人のおとぎ話 鬼嫁
むかし むかし あるところに ぺんぺん村と呼ばれた小さな村がありました。
ぺんぺん草しか育たないような荒地が多いことから名付けられた貧しい村であります。
それでも村人たちは助け合いながら細々と暮らしておったそうな。
そんな貧しい村の更に貧しい権助の家にキクが嫁いだのは7年前のコスモスの花が咲き誇っている頃でした。
権助どんが鬼嫁をもらったそうな』 そんな噂が馬が駆けるよりも早く村中に広まりました。
権助とキクは幼馴染ででしたが、その頃のキクはイノシシも除けて通ると言われる程の餓鬼大将で、村中の男の子がキクのげん骨でタンコブをこしらえていたそうじゃ。
鬼嫁の噂はそんなことから生まれたようです。
そんなキクと権助が結ばれたのは仲人好きの村長のおばばが両家の親を説得して成立したものであります。
権助が心配した通り、花嫁のキクは昔のキクに輪を掛けたような凄キクに成長しておったそうな。
怖いですね〜〜 怖いですね〜〜
それからというもの権助はキクにお尻を叩かれ、朝から晩までへとへとになるまで働かされたのでした。
夜な夜な、友人の優しい嫁が羨ましくて枕を濡らしていたそうじゃ。
そんなひ弱で、ちょっと怠け癖があった権助がキクと暮らすようになって5年も過ぎた頃には村一番の働き者になっておった。
もちろんキクも畑仕事を終えてからも子供や権助の両親の面倒を見ながら夜遅くまで働き、朝は誰よりも早くから起きて食事の支度から洗濯、掃除、それを終えてから畑仕事に出掛けると馬や牛が頭を下げる程せっせと働いていたのであります。
夜のお勤めも権助のふんどしを引っ剥がして頑張らせたおかげで3人の子宝に恵まれておりました。
ある秋の夕暮、庭のコスモスの花のそばで遊ぶ孫を見守りながら爺さまと婆さまが縁側で話しておりました。
『7年前、嫁が嫁いで来た時もコスモスの花があのように綺麗に咲いておりましたね、権助はいい嫁をもらったもんじゃ』 と婆さまがつぶやきました。
すると爺さまはそれに応えるように『たいした鬼嫁をもらったもんだと心配しておったが、やっぱりあれはたいした鬼嫁だったわい』と言ったのでした。
婆さまはびっくりして『何か悪い事でも?』と繕いの手を止めて爺さまの顔を覗きました。
すると爺様は『あの嫁が来る前にはこの家には貧乏神やら疫病神が住んでおったがいつの間にか嫁が怖くて逃げ出してしもたわ、あれはやっぱりたいした鬼嫁だわい』と言ったのでした。
婆さまはホッホッホッと笑いながらまた繕いの手を動かすと爺さまが話を続けます『農家の嫁は美人よりも丈夫な鬼嫁のほうがいいのかも知れん』とおまけの冗談を言って笑っていると後ろの障子がスーッと開いて爺さまの頭は何かで(ピシャッ)と叩かれたのでした。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはキクが編み掛けのわらじを持って仁王様のように立っていたのです。
美人よりも鬼嫁と言ったことを聞かれたに違いありません、爺さまが叩かれた頭を抱えると
『爺さまの頭にハエが止まっておったが、逃がしてしもたわ ハッハッハッ』と家が揺れんばかりの大声でキクが笑ったので爺さまも婆さまも庭で遊んでいた子供達も皆つられて大声で笑ったそうな。
空から見ていたお月様も半分雲に隠れてクスクス笑ったそうじゃ。
めでたし めでたし