白髪の王子様の好奇心 24 お父さんの誕生日

お父さんの誕生日
○匡恵 もうすぐお父さんの誕生日だけど、どうする?
◎どうするって、お母さんが考えてよ、私も明恵も結婚してそれぞれ家庭を持ってるんだから
○それは分かるけどさ、お父さんは私が豪華な贈り物をプレゼントするより匡恵や明恵から
 お菓子でもプレゼントされた方のがずっと嬉しいんだよ
◇へ〜〜そうかな? ところでお母さんはお父さんの誕生日に豪華なプレゼントしたことあるの?
○あるよ、失礼ね 明恵のその目は疑いの目だね
◇だったら何を贈ったのよ
○グッチのお菓子だよ
◇グッチのお菓子? そんなの有るわけないじゃん
○お前達が生まれる前には有ったんだよ、グッチのお菓子やヴィトンのケーキが
◎ちょっとお母さん、最近お父さんに似て来たんじゃない? 心配だな
◇匡恵姉ちゃんの言う通りだよ、結局似たもの夫婦なんだよ二人は
   はははは はははは
駅前のスーパーの中に有るバーガーショップの横に2〜30人が座れる休憩所が有る。
昼が近いせいか、スーパーで買ったお弁当を備え付けのレンジでチンして食べてる人もいれば
バーガーとポテトを両手に持ってはしゃいでいる子供もいて賑やかである。
私はこういう場所が好きである。一見せわしい雰囲気だけど、こういう処での会話は皆楽しそうで
明日にでも自殺しそうな深刻な話を聞くことはまずないからである。
今日も楽しそうな会話を先程からコーヒーを飲みながら聞いている。
目は前を向いているが耳は横のテーブルの会話を聞いている。
目と耳の位置が直角の90度で有ることの意味が今になってようやく理解できた気がする。

◎誕生ケーキ買ってもお父さんとお母さんだけじゃ食べきれないから結局私達が家に持って帰る
 でしょ、今年はショートケーキでいいんじゃないかな
○だけど匡恵、お父さんは今年73歳だよ、ショートケーキに73本のローソクは立てられない
 でしょーに
◇馬鹿言わないでよお母さん、今迄だってローソクなんか立てたことないじゃない
○馬鹿はないでしょ明恵、今年は特別なんだよ
◎何が特別なの?
○今年は一生に一度だけの73歳の誕生日なんだよ
◇そんなこと言ったら毎年一生に一度の誕生日じゃないの、73歳の誕生日が2度も3度も有る方
 がおかしいでしょ
明恵は直ぐに口を尖がらせるんだから、そういう意味じゃなくて、70過ぎてから迎える誕生日
 は、本人にとってはあと何回誕生日を迎えられるだろうかと、ふと寂しく感じる時があるんだよ、
 だから、これからは毎年大切な記念日として過ごしたいと思うの
◎そうか それじゃ小さなローソクに73と書いて立てようよ
◇ははは それいいかも それから私、マスクをプレゼントしようかな
○マスク? 何なのそれ?
◇最近のお父さんのギャグはキレが無く成ってうるさいだけだからさ、吸音材を挟んだ特注の
 マスクを買って贈ろうかと思ってさ
○いいね、それは助かるよ、お前達は時々だからいいけど私なんか毎日目の前で顔が
 引きつるようなギャグを聞かされてさ、その度血圧が
 20も30も跳ね上がってるんだから
   はははは はははは
 
聞かない振りしているのに思わず吹き出しそうになってしまった。
こんな楽しい会話には私も入れてもらいたいものだ、ただし女3人の攻撃に苦戦しそうなお父さんの
味方として。