白髪の王子様の好奇心 95 若者言葉

若者言葉
池の底からぶくぶくと湧いては破裂する気泡のような若者言葉は何時の時代もお尻かじり虫ごとき存在であります。
ところが学生中心にもてあそばれてきた多くの造語は一般社会人にまで浸透してきています。
30を過ぎた大人が『ヤバッ』とか『スゴッ』等と若者言葉を使うのを見て若者達がどう思うかを尋ねてみたところ、殆んどの学生が『ウザイ』と感じているそうです。若者ぶったり若者達の好感を得ようとして身に合わない若者言葉を使うと、若者からも年輩者からも軽蔑される恐れがあるので気を付けた方がよろしいようです。
私もハンバーガーショップで40代のおやじが『熱ッ』とか『甘ッ』とか言ってるのを聞いておやじのテーブルをひっくり返したくなったことを思い出します。
そこで気付いたことですが簡略語のために一番犠牲になってるのは『い』の字ではないかということであります。例えば40男が使っていた『熱ッ』は熱いが正しい使い方ですし『甘ッ』も甘いが正しいのです。凄ッも早ッも辛ッも暑ッも寒ッもと上げたら限がありません。のけ者にされた『い』の字が可哀そうに思えてきます。
皆様も仲間や先輩から無視されるようなことが有ったら『い』の字ことを思い出して我慢していただきたいと思います。
こうした若者言葉の発生源の多くは、どうやらJCやJKらしいのです。そこのおじさん、JCはジャパンカップの略じゃ有りませんよ、女子中学生のことですよ。それが理解できたらJKは何の略だかもうお分かりですよね。
中には感心する言葉もあります。『父さん、よさのってるよ』と息子から言われたらどうしますか?
口笛吹いて指を鳴らす『よたってる』のとは違いますよ。
それは髪の毛が乱れているという意味なのです。あの与謝野晶子の歌集『みだれ髪』をもじっているのです。
時の流れによって変わって行く若者言葉に対してお爺ちゃんやお婆ちゃんの言葉はシーラカンスの如く頑固に進化しません。
『よいしょ『・『こらしょ』・『どっこいしょ』とか『アレアレ』・『ホレホレ』は神代の昔から使われているような気がします。お年寄りにはこれだけで充分なのです。
『よいしょ・こらしょ・どっこいしょ』の言葉で身体をいたわり、『アレアレ・ホレホレ』だけで殆んどの会話が通じる程進化しているのです。
その他『赤ちゃん言葉』というものも有りますが、この赤ちゃん言葉は赤ちゃんがしゃべるのではなく、大人が勝手に赤ちゃんの気持ちになって使う言葉で、赤ちゃんにとっては迷惑なことなのです。
『もちもち〜〜おげんきでちゅか〜〜』と甘ったるい声で皺だらけの不気味な顔が目の前に迫ってきたら、赤ちゃんは本能で泣くか笑うかしてそのピンチから逃れようとするのです。
その証拠に傍で聞いてる私達でさえ『おえ〜〜』と吐き気を覚えるのですから。
こうした世代による言葉以外にもちまたには業界用語で溢れております。その中でも江戸時代もしくはそれ以前から使われている相撲用語、歌舞伎用語、更には大工用語、市場用語などはそれぞれ辞書ができる程多くの専門用語が有り、今でも関係者では通常会話として使われています。
古い言葉で魅力的なのが『ありんす言葉』ですね。芸者言葉とかおいらん言葉とも呼ばれますが、この言葉は地方出身の女性のなまりを誤魔化すために作られたものと聞いております。
確かに綺麗なおいらんが『そうだべさ〜〜』とか『んだんだ』なんて言ったら色気なんか吹っ飛んでしまいますよね。ひらがなやカタカナを作り出した日本人の知恵ですね。
100年先には全ての国が英語を使うようになると予測する人もおりますが、感情豊かな日本の言葉は何時までも残しておきたいですね。
おやおや? 何処からかおいらんの声が聞こえてきます。
『白髪の王子はん お入りなんし わっち ぎょうさん甘えさせていただきますよって やさしゅう抱いておくれやす』
ウッシッシッ 江戸時代は最高でありんす。それでは平成時代の皆さん、ごきげんようでありんす。


強い風が吹いた後の空は細かい塵で覆われ、夕陽も霞んでいつもの10倍以上の大きさに見えます。