白髪の王子様の見聞録 ④フリーマーケットの名物お爺ちゃん

フリーマーケットの名物お爺ちゃん
◎お爺ちゃん お早うございます
☆おや お兄ちゃん 素敵な彼女なんか連れてデートかい
◎来年彼女と結婚するんですよ
☆へ〜〜それはそれは 朝から目出度い話を聞いて嬉しいね 然し光陰矢の如しとは良く言ったもんだ お兄ちゃんが小学生の頃親に手を引かれて鼻水垂らしながら私の口上を嬉しそうに聞いていたのを良く覚えているよ
◎お爺ちゃんの怪しい話が大好きでフリーマーケットに来る度親にせがんで聞きに来たんですよ
☆自慢の口上が子供にまで怪しいと思われちゃ売れない訳だな ワッハッハ
◎だって 口上だけでなく売ってる物もみんな怪しいんだもの 最近は万能薬のガマの油は置いてないんですか? 
☆あれは銃刀法違反で捕まってからやめたよ 吾輩が産まれた後から勝手な法律を作りやがってさ ガマの油の口上に乗せて若竹を真剣でスパッ スパッと切るところが一番の見せどころなのによ 刀を取り上げられちゃあおしまいよ 
◎お爺ちゃんはバナナの叩き売りもやってたよね 面白かったな〜〜
☆吾輩の叩き売りの口上は寅さんよりも面白いと評判になりそれを聞いたこのフリーマーケットの主催者から三顧の礼をもって迎えられたもんさ 当初は出店する人が少なくてチンドン屋の後ろで踊りながらチラシを配ったりもしたもんさ それが今じゃこの通り100店以上の出店がずらりと並んで吾輩はトイレ近くの隅っこに追いやられてしまったという訳だ ワッハッハ
◎トイレが近いのはお爺ちゃんにとっては都合がいいじゃないですか
☆ハハハ さすがお兄ちゃん お蔭で大人用のオムツを履かなくてすむしよ 売ってる物も臭いもんばかりだから吾輩にとっては一等地と言う訳だ ハハハハ しかしあんた20年近くもこのフリーマーケットに通ってるくせに吾輩の売り物を何一つ買わないでよく平気な顔して話し掛けてくるよね そうとう面の皮が厚いんだろうね
◎だって私はお客じゃなくてお爺ちゃんのフアンだもの
☆ハハハハ うまく逃げたな お主も悪よの〜〜
◎最近は骨董品ですか やっぱりどれもなにか怪しい臭いが漂ってますね
☆バカ言っちゃいけないよお兄ちゃん どれもこれも由緒ある天下の逸品だよ 結婚したら家に一つぐらい骨董品を飾るのが常識ってもんだ この壺なんてどうだい ジョン万次郎が時の将軍徳川慶喜公に献上したという昇り竜が描かれた縁起の良い壺だよ ジョン万次郎がアメリカを去る時リンカーン大統領から頂いた貴重な逸品ときたもんだ それが大政奉還のごたごたで行方知らずになっていたところある公爵家の蔵から奇跡的に発見された国宝級の壺だよ 500万円と言いたいところだがお兄ちゃんの婚約祝いだ 駅のホームから飛び降りたつもりで5万円でどうだねイケメンのお兄ちゃん
◎ふ〜〜ん イケメンと言われても壺の裏底にメードインチャイナのシールが貼ってあるから止めとくわ
☆えっ おかしいな そのシールどこから飛んで来たんだろう きっと黄砂と一緒に飛んで来てそこに張り付いたんだな そのシールに騙されちゃいけないよ 吾輩を信じなさい 信じれば救われるとお釈迦様もおっしゃったもんだ どうだね今度は座布団から飛び降りたつもりで5千円でいいよ
◎この壺よりお爺ちゃんの口上の方のが価値があると思うな 嘘と分かってても心が浮き浮きしてくるもん
☆よっしゃ その言葉気に入った お兄ちゃんにこの吾輩を売ってやろうじゃないか
◎えっ! お爺ちゃんを売るんですか・・・ ちなみに御幾らですか
☆婚約祝いだ 300円でどうだね
◎随分安いですね
☆その代わり朝昼晩の3度の食事と晩酌は熱燗で3合 それに夜寝る前に大人用オムツの交換をしてほしいんだが どうかねそこの美しい婚約者のお嬢様
★『美しいお嬢様』という言葉だけ只で頂いて今日は帰ります
あじゃ〜〜 今日も財布の中はスッカラカン 夕焼け空にトンビが一羽 くるりと輪を描き秋深しときたもんだ お二人さん 幸せになっておくれよ この壺は吾輩からのプレゼントだ持って行きな 新婚さんの部屋に飾ってもらえれば国宝級の壺も満足じゃろ 飾るときはメードインチャイナのシールは剥がしておくれ  ワッハッハ ワッハッハ 

おわり